Computing for Tomorrowのプロジェクトのもうひとつの成果といえるのが、Edge AIプラットフォーム「Infini-Brain」である。
2018年5月16日開催「Day1」の記者会見で初公開した「Infini-Brain」は、エッジコンピューティングの新たな姿を目指したもの。CADなどで利用される一般的なワークステーションの10台分という性能を持っており、複数の異なるAIを同時に稼働させ、しかも低電力で実行できるのが特徴だ。これにより、AIによるリアルタイムでの分析や、高性能な画像処理が可能になる。
実は、これもComputing for Tomorrowで開発が進められた「KEN」と呼ばれるプロジェクトをベースに進化させたものだ。
「映像データなどをクラウドにリアルタイム転送しようとすると、ネットワーク帯域の問題や、プライバシーやセキュリティなどの問題が発生する。用途によっては、クラウドが持つコンピューティングパワーをローカルに置くことが必要。それによって、これまでには実現できなかったコンピューティング利用が可能になる」(齋藤社長)。
Infini-Brain、教育分野での活用、家庭での活用
また齋藤社長は、Infini-Brainの具体的な用途として、富士通が得意とする教育分野を例に説明する。
「カメラで撮影した映像から、人物をリアルタイムで検出。検出した人ごとに、骨格を見ながら体の動きや表情を推定できるようになる。この技術を学校で使えば、生徒のうつむき加減の多さを認識したり、最近はよそ見が多いことなどが分かる」(齋藤社長)。
そして、齋藤社長は冗談まじりに、「教室で手をあげているときの児童の動きを分析することで、自信を持って回答するために手をあげているのか、みんなにつられて手をあげているだけなのかということも分かる」とし、「いち早く子どもの機微に気づき、それを先生に伝えることができれば、子どもたちの日々の成長を支えることができる」とした。
家庭内での利用も想定する。「介護が必要な家族の不調を検出し、いち早く介護者に声をかけるなど、日々の生活のなかで欠かせない存在になる」(齋藤社長)。
ここでは、家族の感情や関係性を観察・解析。同社のAIエージェント「ふくまろ」を通じて、適切なタイミングで、相手を思いやったアドバイスができるという。
齋藤社長は、「これ以外にも、様々な領域で活用されるものになる」と今後の広がりに期待を寄せる。実際、5月16日の会見でプロトタイプを公開して以降、すでに共同研究などの申し入れが出ているという。
危機感と期待感
「Infini-Brainは、もっともっと人に寄り添うにはどうしたらいいのか、という発想から生まれた商品」と齋藤社長。
Computing for Tomorrowでの取り組みは、「人に寄り添う」という点から、具体的な活用シーンを想定して開発をしているものばかりだ。それは、Infini-Brainも同じだという。そして、「人に寄り添う」ことを実現するために、箱売りだけにとどまらず、ソリューションを組み合わせた提案につなげていく考えだ。
現時点で公開したInfini-Brainは、キューブ形状のデザインとしているが、あくまでもプロトタイプであり、このまま商品化されるものではないとも。さらなる小型化も期待できそうだ。
「Computing for Tomorrowの活動は、レノボが51%を出資した新たな体制になっても、継続的に行っていく。AIやロボティクス技術を活用した新たなデバイスの創出や、エッジコンピューティングの領域でもさらなる新提案をしていきたい。FCCLが独自性を維持するためにも、こうした取り組みは継続していく必要がある」(齋藤社長)。
実は2018年4月から、Computing for Tomorrowは、アイデアを形にする取り組みから、事業化を重点ポイントにおいた取り組みへと歩みを進めた。それに伴い、開発部門からプロダクトマネジメント本部へと、管轄を移管。「Computing for Tomorrow(CFT) 2020として、2020年には売り上げ、収益に貢献する事業に育て上げたい」と、FCCLの竹田弘康副社長兼COOは語る。
FCCLの社内では、Computing for Tomorrowを軸とした新たな事業の創出こそが、FCCLの生き残りを左右するという危機感と同時に、新たな事業がドライブすることに大きな期待感を持っている。
この危機感と期待感は、我々が感じる以上に強いものだ。なぜなのか。次回は、その真意に迫る。