苦労なく走れる走行性能に磨き
では、走りの部分ではどう進化したのだろうか。マツダがアテンザの走りで目指すのは「エフォートレス・ドライビング」(Effortless Driving)の境地。「苦労がない」「楽な」といった意味を持つ“Effortless”という言葉をマツダが使ったのには意味がある。
今回の改良でマツダは、アテンザのドライバーに「余計な注意を払う必要がなく、余裕を持って、自然に運転を楽しむことができる環境」(脇家主査)を提供することを目指したという。ハンドリングと乗り心地で追求したのは、歩いているときと同じような感覚でドライバーが体のバランスを保てること。そのため、サスペンション、ボディ、タイヤなど、広範囲にわたる改良を加えたそうだ。余計な注意を払わずに済む、歩行と同じような“Effortless”な運転感覚。これがアテンザでマツダが提示したい走行性能だ。
走りの面ではパワートレインにも進化がある。アテンザではガソリンエンジンとディーゼルエンジンを選べるが、どちらもマツダの最新型だ。ディーゼルは出力とトルクが向上しており、ガソリンには燃費向上に効く「気筒休止技術」(詳しくはこちら)を採用している。
他にも変わった部分はある。例えば静粛性が上がっていたり、内燃機関へのこだわりを示すマツダらしくマフラーが大径化していたり、インテリアについても全面的に変更が加えてあったりする。これだけ変わったので当然だが価格も上がっていて、最上級グレードであるクリーンディーゼルエンジンの「XD L Package」(4WD)で比べると、現行型が税込み400万1,400円からであるのに対し、新型は同419万400円からだ。
国内セダン市場の状況に危機感を抱くマツダ
ところで、アテンザの販売面や市場環境はどのような状況なのだろうか。マーケティングを担当する国内営業本部の空閑俊夫(くが・としお)氏によると、アテンザが属するセグメントの市場規模自体は2014年頃から少しずつ縮小しているそうだ。これにはSUVブームも関係しているだろう。ちなみに、同じセグメントにはワゴンであればSUBARU(スバル)の「レヴォーグ」、セダンであればトヨタ自動車の「カムリ」などがいて、輸入車にはメルセデス・ベンツ「Cクラス」やBMW「3シリーズ」といった売れ筋がそろっている。
特徴的なのは、市場自体は縮小しているのに輸入車勢が販売台数を維持しているところ。この状況を空閑氏は「クルマ好きの本質的なお客様はしっかり残っている印象」と見る。実は、この状況こそ、マツダがアテンザの改良に力を入れるもう1つの理由だ。
アテンザ開発主査の脇家氏は「昨今は日本でも、お客様の需要がSUVにシフトし、セダンやステーションワゴンは売れていないといわれている。確かに国産ブランドではその傾向がある」と認めた上で、「一方で、輸入車ブランドが堅調に売れ続けていることも事実」とし、この状況にマツダとして非常に強い危機感を感じており、「アテンザのこれからの生き様も含め、どうにかしなければという気持ち」を強く持っていると語った。
それには「セダンやステーションワゴンでしか持ち得ない資質を極めて、クルマの普遍的で本質的な理想価値を磨き、志を持って、最新の技術とデザインで作り上げることにより、『やっぱりアテンザがマツダにとってのフラッグシップだね』と再確認してもらう」(脇家氏)ことが重要であり、アテンザを運転したい、所有したいと顧客に考えてもらうことが必要とする。これが今回の商品改良で示したいマツダの意志なのだそうだ。
SUVブームでも輸入車セダンの勢いが堅調であることが、「ブームに関係なく良いものは売れる」という意味であるとするならば、その状況の中でシェアを落とす国産ブランドにとっては危機的状況だろう。この状況を打破すべく、クルマの本筋ともいえるセダンに力の入った改良を加えるのも、欧州のプレミアムブランドと競っていかなければならないマツダにとっては当然の話だ。