――正直、賃貸マンション暮らしでいつ別の地域に引っ越すかわからない身としては、今のお話を聞いてもなお町内会に入りたいとはあまり思えないのですが、町内会・自治会に入るメリットにはどんなものがあるのでしょうか?
玉野教授「メリットと言われると正直難しいですね。いざ、というときのために近所の人とは仲良くしておいたほうがいい、ということでしょうか。たとえば被災した場合などはご近所付き合いがあるほうが助かるでしょう」
――それはたしかに。
玉野教授「単身の高齢者であれば孤独死を防ぐことにもつながるかもしれません。町内会・自治会に入っておくことは、将来、何かあったときのための投資でもあるんです」
――ただ、今は入らない人も多いのですよね?
玉野教授「多いですね。それが今の町内会・自治会の抱える大きな課題です」
――なぜ入る人が減ったのでしょう。
玉野教授「昔はマンションが建つなど新しい住民が入ってきたときには、町内会の人が1軒1軒回って加入を勧めていたんですよ。ただ、町内会や自治会の人手が少なくなり、高齢化も進んだせいで、それがなかなか難しくなっています。最近では賃貸マンションなどは回らないことも多くなりました」
――分譲はまだしも、賃貸マンションの住人はまた引っ越していなくなるかもしれませんしね。
玉野教授「賃貸住宅に住んでいる人も、向こうから来ないのにわざわざ自ら町内会や自治会を探して入ろうとする人は少ないでしょう」
――それはそうですね。
玉野教授「そういう事情もあり、以前は8割以上が加入していたような郊外の町でも加入率はどんどん下がっています。それから、タワーマンションが増えたことも影響していますね。タワーマンションは人も多いですし、マンション内に自治会を持っていたりしますから」
――そういう意味では地域単位ではなく、建物単位になりつつあるとも言えるわけですね。衰退というよりも"あり方"が変わりつつあるという。
玉野教授「ただ、そこでも全戸加入と言うとなかなか難しいですね。近所付き合いを避けるためにマンションに住んでいるという人もいますから」
――ちなみに、きちんと機能している町内会を見分ける方法はありますか?
玉野教授「新たな住民がやってきたら、家まで誘いにきてくれる町内会は機能していると言えると思いますよ。組織自体にそれだけ体力があるということですから。あとは、町内会の仕事を輪番でちゃんと回しているところですね。逆に気をつけたほうがいいのは、仕事を平等に回さず、特定の誰かに任せっきりになっている町内会でしょう」
――なるほど。「勧誘に来てくれるかどうか」というのはわかりやすい見分け方ですね。どうもありがとうございました!
町内会・自治会の役割や仕事、加入することの意義について伺ってきました。必ずしも加入は義務ではないとのことですが、今後長くその場所で暮らしていくことを考えるなら、地域ぐるみのお付き合いという意味で加入する、というのも1つの安心材料になりそうです。
とはいえ、機能していない町内会・自治会もあるようですので、そのあたりはしっかり見極めておきたいですね。
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玉野和志教授プロフィール
首都大学東京・人文科学研究科教授。専攻は地域社会学、都市社会学で、町内会・自治会やNPO・ボランティアといった、地域生活や市民活動の社会学的な調査・研究に従事している。著書に「東京のローカル・コミュニティ」「近代日本の都市化と町内会の成立」「実践社会調査入門」など。