このイベントにかかっているのはバッテリーチェッカーなどの器具の一部費用と人件費だけ。逆に言えば、西原氏らが自分たちで手を動かし、まだまだ仕組み化されていないことの裏返しだが、西原氏は「人と人が対面してやるからこそ、私たちが提供する"ワクワク"を感じてもらえるのかなと」と説明する。
「多くのお客さまから、『auユーザーでホントに良かったです』と言われるんです。多分、『こういうことをやってくれる良い会社で良かった』という意味だと思うんですが、これを他社ユーザーでも受け入れることで『ああ、auって温かいんだな』と感じてもらう。CMだけでは感じられない、"auらしさ"を感じとってもらうことが、私たちの存在を意識してもらえる一端になればと思っています」(西原氏)
実際、イベントに参加した人に質問を投げかけると、「前日にニュースで見た」「ラジオを聴いた」というドコモ、ソフトバンクユーザーがおよそ1/3ほどいた。「昔利用していたので、またauに戻ろうと思いました」「奥さんがずっとドコモなのでなかなか難しいですが、私としてはauに戻りたいですね」と、反応は様々だが、お客さんの心に響いたことに違いはない。
「私たちのサービスを、他社ユーザーでも、徐々にauへと関心を寄せてもらえるに。そんな環境作りになれたらなと」(西原氏)。今回のイベントでも、5月11日~13日の3日間で100名を超えるユーザーの参加を見込む。累計で1000人の思い出を取り戻す節目が見えてくる段階だが、「まだまだCXの領域は、他部署も含めて模索中」(西原氏)だという。
現状のイベントはそれぞれが単発の"点"に見え、"線"にはなっていない。ただ、「当初から映像や写真を撮影して、思い出が復活した様子を残している。これらの蓄積を、多くの人にアーカイブとして見られるようにしたい。それは、このイベントを線として繋げて見せるだけでなく、ほかのCXの活動にも作用するような、汎用性のある工夫を進めていきたい」と西原氏は言う。
イベント開始当初は、KDDIの広報部として、オウンドメディアのいち企画としてスタートした。これを宣伝部に移管して西原氏らが進めるのは「会社として、このCXをブランド価値にしていくこと。au=CXという価値を、より広く、お客さまに伝え、ブランド化していくことだ」(西原氏)。
携帯キャリアの存在意義は、「ケータイ」が全盛だった10年前と今で大きく変わりつつある。
どの携帯キャリアでも同じ端末が並び、スマホで使うサービスもSNSや動画、音楽など、携帯キャリアに依存しないものも増えた。さらに言えば、格安スマホと言われるMVNOが徐々に浸透してきたことで、「MNOの存在価値とは何か」をどう伝えるのか、西原氏らは宣伝部として、強く打ち出さなくてはならない状況にあるのだろう。
スマホやスマートホームなど、さまざまなデバイスがあらゆる身の回りに増えていく中で、機械ではなくあえて「人と人の接点を強く打ち出す」というKDDIのカスタマー・エクスペリエンス。この「CX」は、auというブランドが心の内側に入ることで、「ワクワクを提案し続ける会社」というミッションの前提になっているのかもしれない。