データ管理のためのソリューション
収集されるデータの量は、今後も急増していくはずです。自動車の業界では、レベル5の自動運転を目指すに従い、データの量は増え続けるでしょう。レーダーやLiDAR、カメラなどのセンサから取得したデータを組み合わせて、自動車の周辺環境を把握します。また、生体センサからのデータを使って、ドライバーの健康状態などを把握します。それらのデータに基づき、車線変更アシストやアダプティブクルーズコントロールのような機能を実現するシステムが動作します。この分野では、より優れた機能の実現に向けて、AI(人工知能)の可能性も今まさに爆発しようとしています。
テストを担当する技術者にとって、データの問題は深刻です。なぜなら、収集するデータの量が膨大であるだけでなく、収集したデータを検証するための処理も追加で必要になるからです。つまりは、より大規模なデータセットをほぼ瞬時に解析しなければならないということです。最近、Teslaが衝突事故を起こしたことがニュースになりました。これは瞬時にデータを処理する点で問題が生じた例です。より良い決定を行うためにはさまざまなことが必要になりますが、それらによってもたらされる影響の大きさは計り知れません。
ここで1つのシナリオを考えてみます。衝突事故が発生した場合には、自動車に配備されたセンサからのデータが解析されることになるでしょう。それにより、自動運転用のアルゴリズムが内包していたエラー(問題点)が特定されるはずです。
システムのテストに使用されるデータが、そのシステムの監視や評価に使用されるデータと同じであった場合、次に考えられることは何でしょう。
特定されたエラーは修正され、そのアルゴリズムを使用しているすべての自動車に対して自動的に更新処理が適用されます。エラーを繰り返さないために、システムを検証する際に使用する新たなテスト用パラメータを、同じデータを使って作成します。
このシナリオは、今後10年のうちに、自動運転のアルゴリズム、AI、IoT(Internet of Things)といった技術に関連して実現されるはずです。ただ、すでに多くのデータが収集されていますが、実際にはその解析が行われていないので、まだ実現された状態を目にしたことはありません。
ここで要となるのは、測定によって得られたデータの保存、共有、検索、解析を容易に行えるようにするエンタープライズ向けのデータ管理用ソリューションです。難易度の高い課題にはなりますが、いくつかの自動車メーカーは、素晴らしい結果が得られるソリューションをすでに実現しています。トヨタ自動車はデータの解析に必要な工数を50%削減したことを明らかにしました。一方、DEUTZはデータの解析に必要な時間を90%削減したとしています。Jaguar Land Roverは、解析の対象とするデータの量を10%から95%に増やしつつ、解析に必要な時間を1/20に削減しました。これらの事例の共通点は何だったのでしょうか。それは、データの管理と解析に向けて標準化されたエンタープライズソリューションを実装したことです。
物事にはトレンドがある
自動車を取り巻く状況は絶えず変化し続けます。自動車の使い方も変わりますし、自動車を定義する技術も変わってきます。政府の規制や賠償責任保険の対象範囲も、未知の変化に対応しなければなりませんし、自動車の販売店やレンタカー会社においては、変化によって大きな混乱がもたらされています。こうした変化の中で最も重要なものは、コンポーネントのコスト、市場投入までの期間、信頼性、そして最も重要な安全性に対する検証/テストに使用するシステムや手段です。幸い、そうした新たなシステムを構築するために使用されるコンポーネントは特に新しいものではありません。私たちは、同様の技術によって、半導体や航空宇宙/防衛などの分野のテストが一変する状況を目にしてきました。特に、航空宇宙/防衛の分野では、自動運転型の機能が数多く使用されています。NIは、テストの領域で40年以上にわたって卓越した歴史を築いてきました。そして、現在は自動車の分野に正面から取り組んでいます。将来的には、近くに位置する業界の同じような問題から多くの教訓を得たといった例を紹介することもできると思っています。また、自動車の分野におけるトレンドの変化や、テスト技術者にとっての意味に目を向けることで、最終的には、自動車メーカーが現在各種の業界をまたがるかたちで取り組んでいる素晴らしい事例が生み出されていくことを期待しています。
著者プロフィール
Jeff Phillips
National Instruments オートモーティブマーケティング部門長National Instruments(NI)で自動車関連の分野を担当するマーケティング部門を統括しています。同分野における市場開拓(GTM:Go-to-Market)戦略の責任者です。GTM戦略を推進するうえでは、市場におけるニーズや予測について理解し、ソリューションに関して、市場に発信するメッセージを定義する必要があります。そして最終的には、ソフトウェアを中心とするNIのプラットフォームを活用することにより、自動車のテストに関連して生じる現在/未来の課題がどのようにして解決されるのか説明することが求められます。
またPhillipsは、LabVIEW認定開発者でもあります。そのスキルを活用し、小中学生を対象に、FIRST Roboticsに関する指導をボランティアで行っています。テネシー大学で機械工学の学士号を取得しています。
今回の記事は「NI BLOG」の筆者によるブログ(2018年4月20日に掲載ならびに「Electronic Design」に4月19日付けで掲載)を邦訳したものです。