▼知らないで歌う方が新田ぽい
――中島さんは『ヒナまつり』では新田義史役として出演し、さらに新田自身が歌う「鮭とイクラと893と娘」でエンディングテーマも担当していますね。
新田役が決まって、第2回のアフレコくらいのときに、「エンディングもよろしくお願いします」っていきなり言われたんですよ。もちろん事務所には前もって話がいっていたと思いますけど、僕はそこではじめて聞いたんです(笑)。
――どういう楽曲になるかは。
新田は作中でシンガーをやっているわけでもないですし、まったく想像できなかったです。ただ、新田にはヤクザという肩書がある以上、義理や人情、任侠に寄せてくるのかなって思いました。なので楽曲を聴いたときはしっくりきましたね。
――限定盤に付属している『ヒナまつり』キャスト対談のDVDで、ヒナについて歌っているというより、新田がふつうにカラオケで歌った曲がヒナに向けた曲になったと言っていましたね。
イメージはカラオケですね。直接自分の気持ちをダイレクトに歌うよりも、家族愛や親子愛をテーマにした曲と知らないで歌う方が、新田っぽいなと思ったんです。たまたま知っている曲をセレクトしたら、そういうテーマがあって、「俺ってどこかにそういうところがあるのかな。いや別にないけどな」って思うような。そのくらいの方が人間味があっていいのかなと思いながらレコーディングをしました。
――一応ヒナと新田の関係性はあるんですよね。
そうですね。ふたりの関係性はゼロ、もしくはマイナスの状態から始まっていって、それが日々を積み重ねていくうちに、少しずつ家族になっていく。『ヒナまつり』は、コメディ作品にありがちな、「怪我をしても次の話では治っている」というのがないんですよ。設定を引きずっていくがゆえにキャラクターがどんどん歪んでいく、という魅力がありますよね。そういった時間の経過みたいなものがふたりの関係性からは見て取れます。
――アンズが相手だったら全然違う楽曲になっていたでしょうね。
そう思います。とんでもなく甘い歌になっていました。ラブソングになっていたかもしれない。
▼歌がうまいところまでがギャグ
――レコーディングではどういったディレクションを受けました?
「格好良く歌ってほしい」と言われましたね。僕が最初に考えていた歌い方としては、歌謡曲っぽくだったり、演歌調でコブシを利かせたりというイメージだったので「格好良くってどんなだろう」と。
――それは歌い方としての格好良さなのか、新田自身の格好良さなのか。 多分どっちもですね。ゴリゴリにコブシを利かせるより、ナチュラルに歌ってほしかったんじゃないかと。この曲っていくらでも癖を強くして遊べてしまうんです。調子を外して歌っても「コメディ作品だから」ってなる。でも、あえて忠実に、キャラクターっぽく歌うことによって、ギャグ性が増すのかなと解釈しました。新田の歌がうまいところまでがギャグなのかなって。
――真面目にやった結果面白いという。歌詞も、(ヒナがイクラ好きなことにかけて)"幾らでも 食えよ 食えよ"とか、ことば遊びが抱負ですよね。その中でも中島さんが心に残っているフレーズは?
"遊び疲れたら 帰ってこいよ どうせ戻る家なんてここしかないだろ"ですね。ここだけ直球ストレート150キロみたいなダイレクトな詞なんですよね。そのあとの"お天道さまに顔向けできやしない"とか、ヒナも新田もアウトローな存在なので、そのまま歌っているところが愛おしいですね。
――EDの映像付きで観たときの印象はいかがでした。
まず、第1話って全然ハートフルな話ではないのに、エンディングに入る前にいい話風で終わって、そこでこの曲が入るのが面白かったです。EDでは三種類の一枚絵が出てくるんですけど、全部に味がありますよね。バーのリトルソングのシーンでは、カメラを引いていったらみんなが居るじゃないですか。あそこの絵は最終回のあとに観たらグッときますね。
――最初と最後で受け取り方は変わってきますね。
変わると思います。最初に出てこないキャラクターも映っているので、3カ月間観続けたら、「こいつあんなことしてたのか」って。なんだかわからないけど感動するみたいな、『ヒナまつり』の不条理な面白さが感じられると思います。