本連載でも何度か紹介してきたが、トランプ大統領はiPhoneを米国の中で作らせるという分かりやすい「米国製造業の中国からの復権」を選挙期間中から口にしてきた。貿易戦争でiPhoneが標的になれば、トランプ大統領の指摘はリスク回避の意味で正しかったことになる。
Appleがすぐに、貿易戦争へのリスク回避の動きに乗り出す、すなわち部品や本体の製造を米国に移すかと言われれば、決して現実的ではないことのように思われる。しかし競争力という意味合いからすれば、米国内で競争優位性を高める部品を作ることにはむしろ積極的に取り組んでいる。
例えば前述のFace IDを実現するTrueDepthカメラに欠かせない光学技術を持つFanisarに投資したり、有機ELディスプレイに変わるマイクロLEDを米国内で研究開発から製造までを行う動きを見せているのは、次の要素技術を国内で調達することで、中国・韓国企業に対して技術面での対抗を図る施策となるのだ。
気候変動への対処や移民などの多様性の問題に関しては真っ向から対立するトランプ政権とAppleだが、iPhoneを巡っては手を携える場面が増えていくという展開が待っているのかもしれない。
松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura