次の新しいことは何だろう?

土橋章宏

――今回の取材で実感しました。土橋さんは「人と人のつながり」をとても大切にされていますね。

そうですか(笑)。心掛けているのは、「気まずくなるようなことはしない」ぐらいでしょうか。脚本家という仕事は、みんなの中間地というか。監督、プロデューサー、役者の間に立って、その落とし所を探るのも大切な仕事です。そういった意味では、懐の深さは養われているとは思います(笑)。自分の考えを通せないから楽しくないこともあるんですが、無理難題に対して意表をついた返しをして、相手を驚かせる楽しさもあります。

――もとはサラリーマンだったそうですね。

日立に勤めていました。バブルが完全に弾けてしまって、当時の研究が打ち切りになりました。僕は研究がやりたかったので、このままいてもしょうがないのかなと思って辞めることに。30歳ぐらいの頃だったと思います。

――同じ業種に転職する選択肢はなかったんですか?

新しいことに挑戦するのが好きなんです。その頃、インターネットの黎明期だったのでWEB制作会社を立ち上げたらわりとうまく行って。次第に大手が参入し始めて、中小企業の需要が減って来た頃に「次の新しいことは何だろう……」と考えて、思いついたのが小説でした。

――作家ですか!?

ええ(笑)。昔から本を読むのが好きだったんです。WEB制作会社に勤めながら、小説の学校に通っていました。完全に趣味だったんですが、それが仕事へとつながりました。ただ、小説を書くのはすごく難しくて、勉強してもどうにもならないことがあると分かったんですよね。

――脚本家になるきっかけが、その壁だったんですね。

脚本は、「三幕方式」や「起承転結」のようにだいたいパターンが決まっていますが、小説は「心で書け」と言われても何をどうやって書けばいいのか分かりませんでした。僕は理系なので、ロジックのある脚本の方が合っていたんだと思います。でも、セリフ周りについては、小説を経験しておいて良かったと思います。

――映画の完成を楽しみにしています。受賞したみなさんにうかがっているのですが、仕事上で影響を受けた映画はありますか?

やっぱり、『ローマの休日』ですかね。高校の英語の授業で、字幕なしの聞き取り用として使われたことがありました。あれは楽しかったですね。設定の良さもありますが、オードリー・ヘップバーンの茶目っ気も魅力的でした。高校の時だからウブで何も知らない中、世の中の成り立ちを教えてくれたような作品です。これが人に伝わりやすい「物語の基礎構造」ということも、この時知りました。

あとは大学生の時にレンタルビデオ屋で2年ぐらい働いていたので、店長から「これを見ろ!」と勧められた作品を見ていました。ジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』とか。そういう渋めの作品が店長の好みで。お客さんの中には、すごい強面の方で『ドラえもん』が大好きの方とかいましたね。外見からは想像つかないような作品を人は好むことがあるんだと。ここでも多様性を知りました。