支持する層に広がり
――男性役員の方たちにとって衝撃だったものが、これだけ受けたのだからすごいですね。
番組が進むにつれて、高校生や専門学校生の方からもファンレターが届くようになって、終盤は逆に下の方にまで広がり、幼稚園児の子が書いた絵にお母さんがお手紙をつけてくれる、みたいなこともありましたね。
――『りぼん』の掲載だけだとそこまで対象は広がらないかもしれないですね。
『りぼん』のコアターゲットも小学校5〜6年生で、中学生になると、別の雑誌に移っていくと思うのですが、アニメにしたことによって、上下ともに広がってくれたなと思います。まだテレビというメディアに力があった頃だったんでしょうね、今にして思うと。
このころのアニメーションはまだMacで色を指定できるような時代ではなく、限定したポスターカラーから選ばなければいけないので、希望する色がカラーチャートの中にないこともありました。だから、当時は先生から、「髪の毛の色や制服の色もう少し自然にならないか」と言われましたけど、難しかったんです。
例えば亜梨実ちゃんの髪の色はグリーンですが、光希も茗子も茶色の髪の毛なので、髪の毛の色として使える色の数も限られていますし、いわゆるライバルとして出てくる女の子に普通の色を使うわけにはいかなかったんですよね。今だったらどんな色でも選べるんですが。
トレンディドラマの手法を応用
――アニメの『ママレ』といえば「ボイスメモ」のヒットも印象的でした。
マンガの原作には一切出てこないのですが、スポンサーでもあるバンダイの玩具担当者や吉住先生とも相談して、恋愛のコミュニケーション・アイテムを提案させてもらいました。ボイスメモも、鍵付きの日記帳も、今だったら「LINEやろう」ですけど、昔はああいうやりとりだったので。
※ボイスメモ…主人公達のメッセージ交換に使われた、音声メッセージを登録できる玩具
――原作にはないおもちゃですが、苦労はありましたか?
これは私が「シェイクスピア理論」と呼んでいるんですが、「人は物語に感動すると、その主役が使っていたものや身に付けてたものが欲しくなる」という話があるんです。芝居が終わった後にグローブ座にある近辺の雑貨屋さんで、『ロミオとジュリエット』の短剣や薬瓶が爆発的に売れたので、商店主が「ありがとう」と劇団員たちにごはんをおごってくれる。つまり、ちゃんと物語の中で必要なアイテムとして使えば、ドラマチックなお話ができるんじゃないかなと思いました。実践したことが一度もなくて、『ママレード・ボーイ』で試させてもらいました。
――ドラマや映画にアイテムをチラ見せさせるような手法は唐突感がありますが、物語で重要な役割だとすごく欲しくなりますね。
ストーリーに絡ませられるかどうかは、シナリオを作っていくときの腕の見せ所だと思っています。例えば、机の上のお水を映すだけじゃ、人は感動しない。犯人を追いかけて汗だくで走っている刑事が、息を切らしたところでおいしそうに水を飲むシーンがあれば、心に残るでしょう。いかに話とシンクロさせられるかが重要だと思います。
――今までにやりたかったことを詰めたというところもあるんですか?
そうですね。たとえば保健室でキスするような盛り上がるシーンで挿入歌をかけるというのも、当時のトレンディドラマの手法を応用させてもらいました。吉住先生がにこにこ笑いながら「やってみたいんですよね、関さんは」と許してくださったおかげです(笑)。毎年、光希役の声優の國府田マリ子ちゃんや『ママレード・ボーイ』の関係者と、先生の誕生会も開いているんですよ。
――それだけ交流が続いているのがすごいです! 社内でも盛り上がりはあったのですか?
私も「当たっている」ということは聞いていましたけど、あとで聞いたら、関連商品が歴代2番目くらいに売れていたそうなんです。ボイスメモはもちろん、着せ替えのお人形も出ていたし、声優さんの歌うCDアルバムがヒットするという先駆けにもなっていたのだと思います。
『ママレ』のおかげであの作品も
――番組の延長もあったということですが。
1年半続きました。スポンサーのビジネスも良かったし、視聴率としても非常に高くて。平均視聴率が12.9%で、最高視聴率は16.1%でした。
――日曜の朝8時半でその視聴率、今では考えられない……。あらためて、ご自身にとって『ママレード・ボーイ』はどういう作品ですか?
馬越嘉彦さんというアニメーターさんにも出会えましたし、一作目としては記念碑的な作品だったと思います。今だったら考えられないですが、当時は「この作品が当たらなかったら、君はもう一回デスクワークに逆戻りかもしれない」とまで言われていたんです(笑)。
――じゃあ、『ママレード・ボーイ』が当たらなかったら『おジャ魔女どれみ』も……。
『デジモンアドベンチャー』もなかったかもしれないですね(笑)。その作品で、また実写化という新たな楽しみに出会えて嬉しいです。
(C)吉住渉/集英社 (C)2018 映画「ママレード・ボーイ」製作委員会
★映画『ママレード・ボーイ』の特集はこちら!