――苦労の末の"バカヤロー戦争"。ご自身として出来栄えはいかがですか。
ちゃんと録れていたので、僕としては納得しています。作品も面白く仕上がって、たくさんの動員もありました。台本を開いた時は「えっ……」と言葉を失ってしまうくらいのセリフの量だったのですが、うまくいってよかった(笑)。『最終章』は『ビヨンド』に比べるとそこまでセリフは多くなかったですね。大友の哀愁を表現していると思うので、『ビヨンド』よりは全体的に静かなトーンでした。
――とはいえ、ブチ切れるシーンもたくさんありました。
そうですね、そこは変わらずでした(笑)。
――役者の声を最も近くで聞いていらっしゃるわけですが、好みの声はあったりするんですか? 録音部の心をつかむ声が気になります。
「アウトレイジ」シリーズの中では白竜さんですね。すごくカッコよくて、声が通る方。こういう作品には欠かせない存在だと思います。
北野武監督との「うれしかった」思い出
――現場では俳優さんとどのようなやりとりがあるんですか?
滑舌悪かったら、「すみません。今のちょっと聞き取りづらくて……」と遠慮なく言わないとけない立場です。ロケの場合は、飛行機やトラックなど周囲の雑音が入った時はもう一度やってもらうのが僕らの鉄則。保険で録っておかないと何があるか分からないので。そういう時は監督にお伺いを立てます。だいたいの監督は「いいですよ」となるんですが、北野監督の場合は編集でどの部分を使うのかを分かっていらっしゃるので、「使わないから大丈夫」と言われることもあります。僕らが保険としてほしくても必要なかったらハッキリとおっしゃってくださいます。
――『最終章』の公開後、大変悲しいニュースがありました。久連石さんにとって、大杉漣さんはどのような役者さんでしたか?
すごく優しくて、僕らにも気さくに話しかけてくださる方でした。ずっと早口で、感情的にも爆発して大変な役なんですよね。聞き取りづらい場面があって、それを正直にお伝えしたら、「えっ!? 本当? ちゃんと言ってると思うんだけどなぁ」と、とぼけながら明るく雰囲気をほぐしてくださいました。大杉さんからは、力強いセリフをいくつもいただきました。
――お人柄が伝わるエピソードですね。ありがとうございました。北野監督と初めて会った時のことは覚えていらっしゃいますか?
初めてお会いしたのは、『みんな~やってるか!』(95)です。演歌のシーン用の歌録りをして、それが初めてだったと思います。当時は緊張していて、ほとんど覚えていません(笑)。その後の会話で覚えているのは……『座頭市』(03)の頃に、タップの音の広がり方のイメージを、先輩の堀内よりも先に僕にヘッドホンをかけて「こんな感じにしてくれ」と伝えてくださいました。それがすごくうれしくて。本来であれば、最初はメイン担当者に話すはず。「はい、わかりました」しか言えませんでしたけど(笑)。
――監督は言葉で褒めることは少ないらしいのですが、それでも監督のツボを押さえられた手応えを感じたことはありますか?
監督のどこかのインタビュー記事で、「音はうまくいってるんじゃないかな」という一言があって。音声と効果と音楽、それぞれのスタッフが楽しそうにやりやすいようにやっていると。その点においてはツボは押さえられたかもと思いました。
"引き算"思考は録音部にも
――三者の関係性が重要なわけですね。
現場で仕上げている時に話し合うだけなんですけどね。お互い作ってきた音を出して監督に聞いてもらいます。
――音楽の鈴木慶一さんは、北野監督について引き算的な思考の持ち主とおっしゃっていました。
音響効果に関しては、いらないものは排除していく。冒頭で軽トラが浜辺に降りていくシーンには、エンジン音が入っていないんです。ダビング作業を3日かけて行うんですが、1日が終わった段階ではエンジン音が入ってたんです。近づいてくる軽トラの音があって、通過して徐々に遠のいて止まってエンジン音も消える。2日目に朝、「あの音取ってくれる?」と言われて。あの音の静けさと雰囲気、これこそが北野映画だと感じました。
――再びアカデミー賞の話題に戻るのですが、任された大役で表彰されるのはすばらしいことですね。客観的に何が評価されたと思いますか。
銃声に実弾の音を使ったり、そういう効果音がしっかりと立っています。だからこそ重要なセリフはハッキリ聞かせたいので、現場の状況が悪いからといって遠慮しないこと。そういう信念があります。