2018年冬季に開催された平昌五輪では、スピードスケートやカーリングをはじめ、女性アスリートの活躍が目立った。長く厳しい修練を積んできた彼女たちのこれまでの努力が結実した瞬間を目の当たりにし、心を動かされた人も多いことだろう。
ただ近年、女性アスリートの健康管理面に付きまとう問題として、「無月経」が叫ばれるようになってきているのはご存じだろうか。この無月経は、何も激しい運動をしている女性に限った話ではない。一般的な生活を過ごしている多くの女性にも共通する問題なのだ。
本稿では、産婦人科専門医の船曳美也子医師にうかがった無月経の原因やその治療法などを紹介する。
原発性無月経と続発性無月経の違い
女性は思春期になると(1)乳房発育→(2)陰毛発育という順で体の変化が起きるが、初経までは2~3年かかることもあるという。日本人女性は平均12~13歳で初経を迎え、14歳までには実に98%の女性が月経を経験すると言われている。
「満18歳になっても初経がこないことを『原発性無月経』と呼びます。16歳以上で乳房発育や陰毛発育があるのに、初経がないときは検査をすることもあります」
原発性無月経は、遺伝や経血の流れを妨げる生殖器の先天異常が原因となるケースが比較的多い。
一方で、定期的な月経があった状態から月経が3カ月以上止まってしまった状態を「続発性無月経」と呼ぶ。一般的な意味で用いられる「無月経」は、この続発性無月経を指すケースが多いと言えよう。
続発性無月経の原因は
規則正しかった月経が止まってしまった場合、妊娠を思い浮かべる女性もいることだろう。妊娠すると、胎盤から「HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」と呼ばれるホルモンが出て黄体ホルモンの分泌を促す。黄体ホルモンが消えなければ子宮内膜がはがれないため、月経はこないというわけになる。
正常ならば25~38日のサイクルである生理周期が延びたときは、排卵が遅い状態を意味する。だが、続発性無月経では「排卵していない状態」になってしまっているという。
「月経が遅れることと続発性無月経の機序はどちらも同じで、『脳からのホルモン分泌のリズム異常』と『卵巣の反応不良』に原因があります。脳にこれらの影響をおよぼすものには、ストレスや急激なダイエット、激しい運動による体脂肪低下などが挙げられます。これらの日常生活に関するもの以外では、『甲状腺機能異常』や『脳下垂体腫瘍によるホルモン異常』といった病気も考えられます」
約1カ月間の生理周期は、脳の中にある視床下部と脳下垂体によってコントロールされている。視床下部は原始的な本能を司る部位で、その近くには食欲や睡眠の中枢があり、相互に作用している。これら内分泌系のどこかがうまく機能していないことが、月経がない一般的な理由の一つとして考えられている。
無月経と体重の関係
また、無月経は体重とも密接に関わっている。BMIが18.5を切っていたり、反対にBMIが25以上で、卵はあるが育ちにくい状態になっていたりすると、月経が止まってしまうケースもあるという。女性アスリートの場合、継続的な激しい運動によるやせ気味(すぎ)の体質が無月経を招いているケースが少なくない。そのほか、卵巣の反応不良という観点では「多のう胞性卵巣」と呼ばれる体質的な問題が関与している事例もある。
「無月経は1年を過ぎると重症化し、なかなか治りません。月経が3カ月間ない続発性無月経になれば、早めの診断と治療が望ましいです」と船曳医師は警鐘を鳴らす。