春ドラマがいよいよスタートする。従来のリアルタイム視聴率ではなく、視聴者の"満足度"を集計している「テレビウォッチャー」(データニュース社)の研究員であり、テレビドラマの脚本家や監督、音楽などの制作スタッフに精通しているドラママニアが、そのスタッフが手掛けた過去作の"満足度"に焦点をあてながら注目のドラマを紹介する。

●「テレビウォッチャー」満足度調査概要
・対象局:地上波(NHK総合、NHK Eテレ、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ)
・サンプル数:関東1都6県、男性1,200+女性1,200=計2,400 ※回収数は毎日変動
・サンプル年齢構成:「20~34歳」「35~49歳」「50~79歳」各年代男女各400サンプル
・調査方法:毎日モニターにテレビ視聴に関するアンケートを同じアンケートモニターへ配信、データを回収するウェブ調査
・採点方法:最高点を「5」とし、「3.7」以上を高満足度に基準

"満足度No.1"古沢良太最新作『コンフィデンスマンJP』

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『コンフィデンスマンJP』キャスト(小日向文世、長澤まさみ、東出昌大/左)と古沢良太氏

春ドラマで最も注目の脚本家と言えば、月9ドラマ『コンフィデンスマンJP』(フジテレビ、月曜21:00)の古沢良太氏だろう。古沢氏は「テレビウォッチャー」のデータが残る2012年4月期から17年10月期までの連続ドラマ作品で、最も満足度の高い作品を手掛けた"満足度ナンバー1脚本家"に輝いている(※1)。その対象作品は、堺雅人主演の『リーガル・ハイ(1)』(12年)の3.98(5段階評価)、同じく『リーガルハイ(2)』(13年)の4.06、杏主演の『デート~恋とはどんなものかしら~』(15年、いずれもフジ)の3.87と、3作品すべてが高満足度の基準3.7を大きく上回るハイアベレージだ。

(※1)…2012年4月期~17年10月期までの期間の朝ドラ~23時台ドラマまで、全話を単独執筆した作品が3作品以上ある作家で、その作品の平均値。

また、それ以前の作品でも、向田邦子賞を受賞した内野聖陽主演『ゴンゾウ 伝説の刑事』(08年、テレビ朝日)や、映画化もされた渡部篤郎主演『外事警察』(09年、NHK)、同じく映画化され低視聴率ながらカルト的人気を誇った長谷川博己主演『鈴木先生』(11年、テレビ東京 ※岩下悠子と共同脚本)のほか、映画でも『ALWAYS 三丁目の夕日』や『探偵はBARにいる』などの大ヒットシリーズや、昨年は新垣結衣・瑛太主演の『ミックス。』がヒットするなど、どれも名作や話題作ぞろい。

古沢作品の特徴は先に挙げた作品からも分かるように、コメディや人情もの、謎解きやサスペンスなど、なんでもありのオールラウンダーなのはもちろん、どの作品にも共通するのが"多面的描写"だ。

例えば『リーガルハイ』シリーズでは、どの回もすべてに白黒をつけず、一方からは白、一方からは黒にも見える描写で物語に深みを持たせ、『デート』では、外見は恋愛不適合者同士の異色ラブストーリーと見せかけながら、"恋愛"の深部まで描いた純愛物語に仕立てるなど、どれも見方を変えて何度でも堪能できる作品に仕上げており、それが視聴者満足度を高めている。

そして今回、詐欺師を主人公に騙しあいが繰り広げられるという『コンフィデンスマンJP』のキャッチコピーは「目に見えるものが真実とは限らない」。まさに古沢氏の"多面的描写"が思う存分発揮されそうな予感だ。

ちなみに、タイトルで少し引っかかる"JP"だが、今作は古沢氏のシナリオをもとに日韓中の3カ国で同時にドラマ化されるという異例の試みで、その日本版という意味でのJP(韓国版は"KR"、中国版は"CN")。作品だけでも多面的描写が繰り広げられそうなのに、韓国版・中国版でもさらに違った描写が見られるとは…この春、さまざまな"コンフィデンスマン"を堪能できるに違いない。

連ドラの巧者×深みを足す演出『モンテ・クリスト伯』

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『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』ポスタービジュアル(左)と黒岩勉氏

16年の大ヒット作『逃げるは恥だが役に立つ』は、その年のドラマ満足度で最高の4.24を記録したが、それに次ぐ第2位で4.04という高数値をマークした作品が、伊藤英明主演の『僕のヤバイ妻』(カンテレ・フジ系)。その脚本を手掛けた黒岩勉氏の最新作が『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(フジ、木曜22:00~)だ。

黒岩脚本の特徴は"連続"ドラマの巧さ。『僕のヤバイ妻』は、妻殺害を企てる夫とそれを阻止しようとする妻の攻防という、あらすじだけ見るとすぐに終わってしまいそうな物語だが、満足度は初回から3.7以上、3話以降は最終回まで全て4ポイントオーバーを記録するなど、二転三転するストーリーとそれに絡む登場人物を巧みに配置し、全9話を飽きさせることなく、見逃せない展開で視聴者を引きつけることに成功した。また、昨年の『貴族探偵』では、基本は1話完結のストーリーでありながら、各話にさりげない伏線を忍び込ませ、全体を俯瞰(ふかん)したときに大きな物語が浮かび上がってくるという巧みな構成で視聴者を驚かせた。毎週放送されるテレビドラマの醍醐味"連続性"を出すことに関しては、最も巧い脚本家と言っていいだろう。

そして、脚本家だけでも期待値は高くなるのだが、それに加えて演出を手掛ける西谷弘監督も注目したい。昨年の10月期に放送され、平均満足度3.85と高記録だった『刑事ゆがみ』を手掛けた際のインタビューで語っている通り、西谷監督は自ら脚本も書ける、映像と脚本どちらにも深くアプローチできるテレビドラマの監督では珍しい存在。連続性が高く病みつきになるであろう黒岩氏の脚本を、西谷監督の演出によってさらに深みが足されていくに違いない。脚本×演出の組み合わせでは、今期ドラマ最強の布陣だ。