量産車にも明確に息づくコンセプト
スバルの顧客が共通して認知しているスバル車を言葉にしたものが「ダイナミック」と「ソリッド」だったと石井部長は振り返る。これを表現するのは「スタンス」「ボリューム」「サーフェス」の3つの要素で、人間でいうと「骨格」「肉付き」「彫りの深さ」に相当するそうだ。これらをボディ全体で表現し、一目でスバル車と分かってもらえるデザインを探ろうと2013年に研究を始め、2014年にジュネーブショーで発表したのがコンセプトカー「VIZIV 2 CONCEPT」だった。
スバルが「ダイナミック」と「ソリッド」という考え方を落とし込んだ初めての量産車は2016年10月に発売となった「インプレッサ」だが、「VIZIV 2」の要素を最大限に盛り込んだのは2017年5月に発売した「XV」だ。ちなみに、2018年3月28日に「ニューヨーク国際自動車ショー」で世界初公開した新型「フォレスター」は、2015年のコンセプトカー「VIZIV FUTURE CONCEPT」から多くの要素を取り入れているという。
「ダイナミック」と「ソリッド」がスバル車のデザインの方向性であり、それは最新のコンセプトカー「VIZIV TOURER CONCEPT」も共有するところだ。では今後、この方向でどのような展開をスバルは見せてくれるのだろうか。
機能の進化がデザインを決める?
「自分の反省としては、今までは歩幅が少し、狭かったかな」。スバル車の2020年以降のデザインについて、がらりと変えるのか、小さな変化を積み重ねていくのかと聞くと、石井部長はこのように答えた。「もうちょっと進化の歩幅、革新の歩幅を、世の中の流れも速いので(広げたい)。崩すのではなく、同じ軸の上で、歩幅をもう少し先に持っていきたいと思っていて、次のデザインでは仕込んでいる」というのだ。
歩幅についてもう少し教えて欲しいと問うと石井部長は、「スバルのデザインは、形やトレンドを追いかける『グラフィック的』なものではないので、歩幅を広げるには機能が必要になる。機能と一緒に歩幅を広げていかなければならない。設計、研究・実験、サプライヤーまでを幅広く含めた、機能の進化を伴ったデザインの進化だ」と説明した。デザイナーの意向だけでクルマの形を決めていくのではなく、顧客のために実現したい機能を踏まえた上で、全社的に物事を進めていく姿勢を整え、大きな歩幅で前進していく。これがスバルの方向性のようだ。
機能といえば、電動化や自動化など、クルマが新機能を獲得する日は迫っている。これがデザインに影響するかどうかといえば「大きく影響する」というのが石井部長の考えだが、「今はスタディ段階なので、多くはいえない。時間を掛けて探りたい」として詳細については言及を避けた。
偶然だが、スバル本社でのイベントの前日、ボルボ車のデザインを統括するマクシミリアン・ミッソーニ氏(ボルボ・カー・グループ、デザイン部門バイスプレジデント)の話を聞く機会があった。同氏が語ったのは、デザインの進化においては、大きく(がらりと)変えるのも、小さな変化を重ねていくのも危険であり、ある程度の「Big Step」が不可欠ということだった。確かに、今のボルボ車は一時期の四角いイメージから大きく変化している。
石井部長が「歩幅」について語った時、ミッソーニ氏の言葉を思い出して興味深かった。スバルもボルボも、多種多様なクルマを用意して年間1,000万台を売る企業ではない分、クルマの個性を群として打ち出すことや、それがどんな個性であるかはブランド戦略上、かなり重要な要素だと思われる。両社が踏み出す次の一歩は、それぞれにとって重要な意味を持つに違いないし、ファンが多そうな両社だけに、多くの人の注目を集めることにもなるだろう。