一方で新たに設立したBeeEdgeは、シリコンバレーに本拠を置く日系ベンチャーキャピタルのScrum Venturesと共同で設立した投資企業だ。パナソニックで家電事業を担当するアプライアンス社が49%を出資しており、社内にある新たなビジネスアイデアを切り出し、これを事業化するために設立するスタートアップへの出資が、主な役割になる。

BeeEdge 社長 春田 真氏(右)と、パナソニック アプライアンス社 社長 本間 哲朗氏(左)

BeeEdgeの社長に就任する春田真氏はScrum Venturesのパートナーを務めており、パナソニック アプライアンス社 社長の本間 哲朗氏は、「春田氏は、伝統的な日本の大手企業と、ネットワークのスタートアップ企業の両方の経験を持ち、両方の企業と会話ができる稀有な経営者である。経営はすべて春田氏に任せるが、一緒になって、新たな希望の種を育てたい」と意気込む。

春田氏は、住友銀行を経て、DeNA会長、プロ野球の横浜DeNAベイスターズのオーナーも務めた経歴の持ち主。アプライアンス社の本間氏は、「パナソニック本体では手がけにくいような、新たな尖ったアイデアを実現に結びつけるプラットフォームを提供する組織になる」と期待を寄せる。

こうした通常の決裁フローでは時間のかかる案件をスタートアップアプローチで取り組む手法は、パナソニックと並ぶ日本メーカーであるソニーも「SAP」というプログラムで取り組んでいる。

「最近、痛感しているのは、ICTが家のなかにシフトしてきて、家電メーカーや住設機器メーカーが取り上げることができる提案が増えている点。もし、米国からのアイデアがあれば、それを事業化して、家電と結びつけ、日本やアジア、インド、中国の市場に対して提案することもやっていきたい」(本間氏)

春田も、外部の力を使いながら、パナソニック社内で芽が出ていないアイデアを形にしていくことに期待感を示しており、「新たなサービス、新たなプロダクトを生み出したり、日々の生活に彩りを加えたりといったように、社会にとって意味のあるものを創出したい」と話す。

本間氏は、「パナソニックは2013年に事業部制を復活させ、すべての事業は事業部機軸で進めている。これはパナソニックにとって、大変強いDNAである」と評価しつつ、「技術開発部門などから新たな技術シーズが事業部に提案されても、事業部長がやらないと言えば、それでお蔵入りになってしまう」と言葉を濁す。今回の取り組みは、アイデアの受け皿をもうひとつ用意することで出口が複線化し、「既存の事業部にも刺激を与えるという副次的効果もある」(本間氏)。

アプライアンス社は既存事業部としても、社内イノベーションプロジェクト「Game Changer Catapult」をスタート。IoT×調理家電と連携し、オフィスで、いつでも安心・安全かつヘルシーで美味しいランチを食べることができる「Bento@YourOffice」や、キュレーションされた映像と音のコンテンツをリビングなどに自然な形で提供する「Ambient Media Player(AMP)」など、社内のアイデアを形にする取り組みを行っている。

  • 美味しいランチを食べることができる「Bento@YourOffice」

  • 自然にコンテンツを提供する「Ambient Media Player(AMP)」

  • 歯のホワイトニングを行う「Sylphid」

パナソニックは、社内のアイデアをスタートアップとして事業化する一方、既存の事業には捉われず、米国のスタートアップ企業に投資をするという2つの取り組みを通じて、同社の成長を牽引する、新たな事業の創出につなげていく考えだ。事業シナジーだけに留まらず、新たな事業創出に向けたスタートアップ企業への積極的な投資は、パナソニックの事業や技術、製品の横への広がりと、新たな成長を生む原動力となりそうだ。