スシローグローバルホールディングスが存在を明かした新業態の「杉玉」。1号店は昨年9月、兵庫県西宮市にオープンしたが、その存在は明かされぬままだった。そこにはスシローの慎重さも伺える。

  • スシローグループの新業態「杉玉」。存在が伏せられてきたのには理由がある

新業態に取り組むのは初ではない

スシローグループが新業態に取り組むのは初めてではない。子会社のスシロークリエイティブダイニングが「ツマミグイ」「七海の幸」を2015年に東京都内にオープンさせた。客単価を4000-5000円に設定、回転寿司のスシローとは異なる客層を狙っていた。

しかし、いずれも長くは続かなかった。理由は多店舗展開には向いていないと判断されたからだ。スシローグローバルホールディングスの水留浩一社長はかつて「我々が取り組むべきは5店舗規模の事業ではなく、100店舗規模の事業を作っていくということ」とインタビューで語っており、採算面よりも将来性を考慮して撤退したと話している。

  • しっかりと店舗展開ができそうだということで3店舗目でお披露目したと話す水留浩一社長

こうした反省を踏まえながら誕生したのが杉玉だ。位置づけは大衆寿司居酒屋であり、想定客単価は2500-3000円。お寿司を食べつつ、つまみに手を出し、お酒が2、3杯飲めて、3000円というイメージだ。

  • メニューには遊び心が盛りだくさん。写真左下「飲めるサーモン」、右下「えんがわの昆布〆炙り」、上「キャビア寿司」(各税別299円)

ツマミグイでは「オシャレ」「女性向け」といったカラーが強く、店舗面積もゆったりとした60坪。一方の杉玉は学生から家族連れ、シニア層までオールターゲットにし、30坪で運営することに大きな違いがあるという。スシローは客単価を低めに設定し、想定客層も変えたことで、店舗展開のあり方を再考したというわけだ。

店舗の存在を隠してきたわけ

そんな杉玉だが、スシローがその存在を公式発表したのは、3店舗目である。1号店は昨年9月、兵庫県西宮市に、2号店は今年1月に東京都千代田区神田神保町にオープンしたが、「取引先には(開店祝いの)お花を贈らないでね、とお願いしていた」(水留社長)と話しており、意図的に伏せてきたのだ。

その理由は、店舗の地力を知るためだ。杉玉には"スシロー"の文字が入っていない。だから、スシローグループとの関わりを見出すのは困難だ。初期段階では「すし郎」という店舗名候補もあったが、回転寿司のスシローのイメージに引きづられてしまう要素をすべて取り除きたいと考えた。だからこそ、広報や宣伝活動もゼロだった。杉玉のピュアな地力を把握するために、ひっそりと静かに運営されてきたというわけだ。

そして昨日、杉玉の存在が公式発表となった。正式発表に至ったのは、継続的な事業運営の確度が高まったからだろう。水留社長も「1号店は開店から数カ月でしっかり利益が出るようになっている。2号店も好調」と話しており、自信が伺える。