新一のナレ死と藤吉の死の描き方
――ちなみに視聴率や視聴者の反響によって、物語の流れを変更したりすることはあるのでしょうか?
吉田:それはないです。たとえば藤吉はダメな部分がある男ですが、最終的な成長を見越して作ったキャラクターなので、最後までぶれずにちゃんと設計したとおりに描きました。
後藤:実際、放送が始まる前に相当な部分を書いて撮影していて、10週以上のタイムラグができるから、間に合わないというのもあります。もちろん、反響を受けて、今後もう少しこの部分を増やそうかとか、そういう微調整をして加える部分はありますが、全体的な流れや人の配置が変わってしまうことはないです。
――脚本上の意外な展開でいえば、まずは千葉雄大さん演じるてんの兄・新一のナレ死にはかなり驚かされました。
吉田:あれは、最初から計画していたものです。「『わろてんか』らしく、暗いシーンはあまり描かないようにしよう」と本木一博監督も含め話し合って。
後藤:僕は新一の“ナレ死”が、なぜあそこまで騒がれたのかはよくわからなかったです。というよりも、「“ナレ死”って何なの?」っていう疑問が大きくて。最後の新一の涙と笑いの表情ですべてを語り切っていたと思います。
――藤吉が死ぬと思われていた16週に死なず、17週まで持ち越しとなった展開も興味深かったです。
吉田:藤吉の死に関してはじっくり描く予定でした。1週間だと、てんと藤吉の別れを描くには短すぎるということになり、16週から17週いっぱいをかけることになりました。
後藤:しゃべくり漫才の完成など史実に沿ったエピソードもあるので、藤吉が倒れてから死ぬまで、どうしても2~3年の時間を描く必要があって。だから一旦病気から回復し、もう一度夫婦として向き合う時間を描き、また病気が再発して倒れるという流れになりました。
最終週に物語のテーマを凝縮
――いろんな愛が多層的に描かれていく点が素晴らしいです。
後藤:僕が今回、吉田さんに脚本をお願いしたのは、恋愛ドラマをやりたかったから。恋愛といっても、夫婦愛や家族愛を含め、いろんな形の愛があると思うんです。たとえば風太のてんに対する愛も、家族愛であり、さらに言うと高倉健さん的な武骨で純な愛というか。
吉田:実は、放送ではカットされていますが、第3週で風太はてんにちゃんと告白をしているんです。前半に風太が「イッヒ・リーベ」とドイツ語を一生懸命練習していますが、それはてんに対して、照れて正直に言えない告白を、ドイツ語でしようとしていたからです。てんには気づかれずスルーされてしまうんですが(笑)。おトキへの告白も「マリー・ミー」という英語でした。風太はそういう素直になれない男なんです。
――藤吉と隼也が、親子2代にわたって同じ大失敗をしていく展開が、後半を味わい深いものにしていました。この流れも最初から決まっていたのですか?
吉田:幹の部分は最初に決めた設計どおりです。枝葉の部分は変えていっていますが。前半でふってあった台詞、面白かった演出をあえて拾って書いたものもあります。後半に行くに従い、いろいろなことが回収されていく感じです。最終週でも監督がまた面白いことをやってくれますよ(笑)。
後藤:特に最終回に注目してほしい。最初からテーマは「笑いが人間を死の悲劇から救う唯一の手段だ」というもので、そこがまた最後に出てきます。昭和21年、戦争の焼け跡から人々がどう立ち上がるか、そしてドラマがどんなふうに終わるのか? すべてが一旦、無に帰してしまった26週は、もう一度初心に帰らざるを得ない。
吉田:だから1~2週目で、新一兄さんが言っていた言葉がまた出てきます。
後藤:最初の方を思い起こさせるような台詞がどんどん出てきて、最終回を迎えるんですが、きっとその回は、朝ドラではあまりお目に掛からない内容になると思います。
――第1楽章で出てきたものが、また第4楽章でも繰り返される。そういう交響曲のような作りになっているというわけですね。
後藤:そうです。最後にもう一度テーマをはっきりと提示し、一番プリミティブなものに戻っていく。最初にてんは神社で初めて寄席を見ますが、まさにそういうところに戻るという流れです。
吉田:最後は、ちょっとした仕掛けを用意しました。まさにそこが『わろてんか』ワールドで、私もそこの演出とみなさんのお芝居がどうなるのか、今から楽しみにしています。
後藤高久
1965年、大阪府生まれ。プロデューサー。大阪外国語大学英語学科卒で1989年にNHKに入局。『春よ、来い』(94~95)、『翔ぶ男』(98)の演出を経て、『どんど晴れ』(07)でプロデューサーに。『つばさ』(09)、『四十九日のレシピ』(11)、『新選組血風録』(11)、『聖女』(14)、『ボクの妻と結婚してください』(15)、『奇跡の人』(16)などで制作統括などを務める。
吉田智子
東京都出身。大学卒業後、コピーライターを経て脚本家に。手がけた主なドラマは『美女か野獣』(03)、『働きマン』(07)、『全開ガール」(11)、『学校のカイダン』(15)など。映画は『僕等がいた 前編/後編』(12)、『ホットロード』(14)、『アオハライド』(14)『僕は明日、昨日のきみとデートする』(16)『君の膵臓をたべたい』(17)などの恋愛映画や、『Life~天国で君に逢えたら』(07)『岳-ガク-』(11)『奇跡のリンゴ』(13)などのヒューマン系ドラマまで幅広く執筆。
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