タクシーの配車アプリやカーシェアリング、ライドシェアなど、次世代型の交通サービス「MaaS(Mobility as a Service)」の発展が世界的に期待されている。

MaaSは「モビリティのサービス化」とも言われ、移動手段を自動車や自転車という"モノ"としてではなく、人やモノを運ぶ"サービス"として提供することを意味する。MaaSは、既存の業界の枠組みを超えた新たな連携を生み、人やモノの移動手段のあり方を大きく変えるポテンシャルを持っており、日本でも各業界の企業がこの市場に参入し始めている。

自動運転を活用したMaaSのサービスプロバイダとしての立ち位置を確立すべくこの領域に進出したDeNA。彼らが目指すMaaSとはいったいどんなものなのだろうか。特集2回目は、DeNAと提携して次世代物流プロジェクト「ロボネコヤマト」に取り組むヤマト運輸 ネットワーク事業開発部 情報ネットワーク戦略課長の畠山 和生氏に話を聞いた。

  • ヤマト運輸 ネットワーク事業開発部 情報ネットワーク戦略課長 畠山 和生氏

「荷物の受け取り方」を多様化したい

MaaSを実現するには、人やモノを運ぶ手段に多様性を持たせる必要がある。一方、畠山氏は、「我々の考えとしては、モノを運ぶ手段というよりは、モノの受け取り方の手段の多様化を目指していきたいのです」と語る。

誰もが知るヤマト運輸の「宅急便」は1976年に誕生、40年以上の歴史を誇るサービスだ。しかし最近では、外部環境、そして利用者の環境も含め、劇的に変化しつつある。宅急便は当初、贈りものの配達を想定したCtoCのサービスだった。

しかし近年、生活スタイルの変化により独居世帯や共働き世帯が増加するにつれて、EC市場が拡大し、宅急便の荷物を受け取る利用者の属性も大きく広がった。これによって、従来よりも「サービス時間外に荷物を受け取りたい」や「玄関先で荷物を受け取るのは億劫」といったニーズが急拡大している。

これに対してヤマト運輸は、不在時の集荷・再配達依頼といった利用者とのコミュニケーションの手段を、電話からメール、LINEまで広げた。コミュニケーション以外にも、コンビニやロッカーの受け取りサービスなど、時代にあわせた「荷物の受け取り方の多様化」を進めてきた。そしてその"多様性"の一つが、来たる自動運転時代における新たな荷物の受け取り方である「ロボネコヤマト」だ。

なぜDeNAと組んだのか?

ロボネコヤマトのプロジェクトが始動したのは、2015年11月。DeNAとの共同プロジェクトとしてヤマト運輸が提案を受けた形だ。

「DeNA側の考えは、旅客だけでなく、市場の大きい物流領域でも、モビリティのサービスプロパイダとして事業を展開していきたいというものでした。一方で我々物流会社は、その時点では『自動運転』と『配送』がアイディアとしてまったく結びついていない状態でした。しかし、誰もやっていないのであれば、試しにうちでやってみても良いのではと考えました」(畠山氏)

ヤマト運輸としては当時、BtoB領域の配送サービス強化と、より地域に密着したサービス展開を課題に抱えていた。一方でDeNAから提案されたロボネコヤマトの事業は、特に地域密着型のサービスとしてマッチすると考えた。「MaaSを通して過疎化地域の課題を解決したいというDeNAのビジョンと、我々のビジョンは非常に近いものであると感じました」(畠山氏)。

その後両社は、2017年4月から国家戦略特区の神奈川県藤沢市で実用実験をスタート。ひとつは、希望する場所で宅配便が受け取ることができるオンデマンド配送サービス「ロボネコデリバリー」。もうひとつは、複数の地元商店の商品をインターネット上で一括購入し、まとめてお届けする買物代行サービス「ロボネコストア」だ。いずれも10分刻みで希望する時間の指定ができる。

  • スマホアプリで受け取り場所を指定し、到着したミニバンの後ろに用意されたロッカーから荷物を受け取る。QRコードをかざすだけの簡単操作で、10分単位という小刻みな受け取り時間で荷物を手元へと運んでくれる

現状では無人走行はできないためドライバーによる有人運転となるが、将来の完全自動運転時代を見据えて、車両に搭載した保管ボックスから利用者が荷物や商品を受け取る際も、商店の店員が商品を預け入れる際も、ドライバーは関与しない仕組みになっている。

意外なニーズと、見えてきた課題

実用実験から約1年が経過するが、実験を通して「意外なニーズと課題が見えてきた」と畠山氏は話す。例えばロボネコデリバリーのリピート率は50%程度と高く、中でもヘビーユーザーは専業主婦が多い30-40代女性だった。

なぜその層なのか。現状では、通常の宅配サービス稼働時間である8-21時のみの提供となることも影響した結果であると考えられるが、家事や子育てをしながら数時間程度の幅がある時間指定で荷物を待機しているのは、主婦にとってかなりのストレスであることがわかってきた。

「当初、お客様自身で荷物を取りに行くというフローは利用者にとってかなりの手間なのではないかという懸念もありましたが、それを差し引いても10分単位で時間指定ができるのは一日のスケジュールが立てやすくなり、ストレスが低減できるという声が多くあります」(畠山氏)

  • 買い物へ行き、子供の送り迎えと主婦は忙しいため、2時間という一般的な配達時間指定の幅は重荷になる。10分単位であれば、時間の融通が効く

一方でロボネコストアは当初、地元商店街の各店舗に加盟してもらって、利用者が一括で加盟店の商品を受け取れるというサービスを想定していたが、実際は個人経営飲食店のフードデリバリーとしての利用方法がメインとなっている。

この理由について畠山氏は、「商店街の方々の高齢化が進んでおり、パソコンや自動音声電話を利用するサービスフローにハードルを感じる方が多いということがわかりました。一方で、個人経営の飲食店からは、お客様が気軽に出前を取れるようになったことでマーケットが広がったという声をいただいています」と話している。いずれも実用実験を行わなければわからなかった結果である。

しかし、いざ事業化となると課題も多くある。