加速でエンジン車を凌駕するテスラ「モデルS」
テスラ「モデルX」は、2003年に創業したまだ歴史の浅いEV専門メーカーの3台目の商品である。1台目が2008年の「ロードスター」で2台目は4ドアセダンの「モデルS」、そしてSUVの「モデルX」となる。
初代「ロードスター」は、英国のロータス「エリーゼ」を基にEVへと改造した車種だが、「モデルS」以降は、テスラが独自に設計・開発したEV専用車となっている。
まだ歴史の浅いテスラとはいえ、トヨタやダイムラーとの提携や、自動車技術者の採用などにより、独自開発の「モデルS」や「モデルX」も品質の高いEVに仕上がっている。また、バッテリーもパナソニックとの提携により、高性能かつ安定した性能で高い信頼性を備えている。
高付加価値の4ドアセダン(モデルS)やSUV(モデルX)から発売をはじめ、今後は、より廉価で量販・普及の可能性をもつ「モデル3」が日本国内へも導入される予定となっている。
高付加価値の車種から導入することにより、走行性能の高さも証明した。「モデルS」の最上級車種では、発進から時速100キロまでの加速がわずか2.7秒だ。これは今回試乗したポルシェ「911 タルガ 4 GTS」より速い。そして「モデルX」でも3.1秒と、猛然たる加速で速さを誇示してきたGTカーやスポーツカーに勝るとも劣らない加速を誇るのである。
こうなると、単に数値で示される速さがGTカーやスポーツカーの証とは言えなくなってくる。
モーター駆動の時代に求められる個性とは
また、静粛性や走行の滑らかさにおいては、そもそも排気音のような騒音を出さず、ピストンが上下するような振動もなく回転するモーターが、エンジンより優れているのは間違いない。となると、ロールス・ロイスがV型12気筒エンジンで目指した静粛性や滑らかさは、いったい何であったのか。単なるエンジンへの郷愁でしかないとさえ思えてくる。
すなわち、エンジン車であるがゆえに馬力という数値がものを言ったり、精緻な作り込みによる滑らかさや、防音などによる静粛性が個性となり得たりしたが、モーターで走るEVともなれば、数値比較が全く意味をなさなくなるのである。
数値比較や職人技ともいえる精緻な作り込みで商品性を最も訴えかけてきたのは、実は日本の自動車メーカーであった。象徴的なのが、技術の内製化を進めてきたことだ。個別の独創技術を生み出すことで差別化をはかる手法である。一方、欧米の自動車メーカーもある部分では数値や緻密さが独自性を作ってきたかもしれないが、多くのクルマは共通の部品メーカーからの同じ部品を使いながら、メルセデス・ベンツやBMWであるといった絶対的個性を生み出してきた。味わいの開発は、もともと欧米に利がある。
ロールス・ロイスからは、10年後までにはなんらかのEVが誕生するかもしれないし、誕生しないかもしれないということだが、「ファントム」のV型12気筒エンジンと同様にBMWと部品の共用を行えば、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)を作ることは可能だろう。ポルシェは「ミッションE」と呼ぶEVを間もなく発売に移す。ポルシェ ジャパンの七五三木(しめぎ)敏幸社長インタビューでも、二酸化炭素(CO2)の排出規制によってやむを得ずEVを開発しているのではないとの答えであった。
どういうクルマであれば“らしさ”、すなわち個性を発揮できるのか。そこが明快であれば、エンジンでもモーターでもかまわないという物づくりができない自動車メーカーは、電動化時代を迎えると淘汰されていくことになるだろう。その意味で、電動化によるコモディティー化は懸念材料だが、味わいを作れる自動車メーカーには問題ないはずだ。
さらには、テスラのように新規参入メーカーであっても、情報社会の日常性を取り入れ、先進の自動運転を積極的に生かし、なおかつ情報端末のアプリケーションのように新しい機能をダウンロードすることで常に最新の仕様にできたり、整備項目が減るEVならではの保守管理の仕方を取り入れたりするなど、顧客と向き合い、日々の生活感覚に密着した価値を提供できれば、EVでも個性を発揮できるはずだ。実際、テスラは歴史が浅くともEVメーカーとしてのブランドを確立している。