日本自動車輸入組合(JAIA)の試乗会でロールス・ロイス「ファントム」、ポルシェ「911 タルガ 4 GTS」、テスラ「モデルX」の3台に乗る機会を得た。いずれも個性的なクルマだ。電動化や自動化など、自動車業界で急速に進む技術革新は、ともすれば各社が同じ方向に向かうものと捉えられがちで、クルマのコモディティー化を不安視する声も聞かれる。大変革の自動車業界にあっては、個性的なクルマであっても差別化が難しくなっていくのだろうか。

  • テスラ「モデルX」

    輸入車一気乗りでクルマの個性について考えた(画像はテスラ「モデルX」)

尖った個性を持つ3台のクルマに試乗

毎年2月初旬をめどに、JAIAは媒体やフリーランスのジャーナリスト向けに試乗会を開催している。JAIAとは、海外の自動車メーカーと直接日本への輸入契約を結ぶ輸入業者の団体で、その設立は1965年にさかのぼる。試乗会は今年で38回目となった。

今年のJAIA試乗会には、23ブランドから77台のクルマが集まった。輸入車は、それぞれに個性豊かであり、それがブランドとなって経営を牽引しているが、今後は電動化が進む情勢であることから、クルマのコモディディー化(差別化の難しさ)を心配する声も聞かれる。

今回のJAIA試乗会では、高級車の象徴といえる英ロールス・ロイスの「ファントム」、スポーツカーの代名詞の1つである独ポルシェの「911 タルガ 4 GTS」、電気自動車(EV)の寵児といえる米テスラのSUV「モデルX」に試乗し、電動化における個性やブランドの行方を模索した。

  • ポルシェ「911 タルガ 4 GTS」

    電動化するとクルマの個性はどうなるのか(画像はポルシェ「911 タルガ 4 GTS」)

英国流で作りこんだロールス・ロイス「ファントム」

現在は独BMWの傘下にあるロールス・ロイスだが、クルマづくりは英国中心で進めている。使われる要素部品の中にはBMWと共通のものもあるが、個性はあくまで英国流で作り込まれる。ロールス・ロイスの中でも、「ファントム」は最上級車種に位置づけられる。今回の試乗はドライバーが運転し、その後席にVIPのごとく座っての同乗試乗だった。

  • ロールス・ロイス「ファントム」

    ロールス・ロイス「ファントム」はドライバーが運転。後席でVIP気分を味わった

「ファントム」は1906年に創業したロールス・ロイスの「シルバーゴースト」の後継車であり、シルバーゴースト同様、あたかもエンジンが回っていないかのように振動もなく、静粛性に優れた高級車を目指したクルマである。

ガソリンエンジンの自動車は、1886年にドイツのカール・ベンツによって発明されたが、当時のエンジンはまだ未成熟で、振動も排気音も大きかった。ロールス・ロイスは、そうしたエンジンを精密に組み上げることにより、上質な原動機へと発展させることを行った自動車メーカーである。

エンジン自動車誕生の前にEVがすでに世の中にはあり、米国のフォードを創業したヘンリー・フォードの夫人クララ・ブライアントも、静かで上品なEV愛好者の1人であった。このことからも、ロールス・ロイスはモーターのように静かでなめらかなエンジンを目指したのだろうと想像できる。

  • ロールス・ロイス「ファントム」

    「ファントム」の後席では世界最高レベルともいわれる静粛性を感じられた

最新のファントムも、エンジンとしてはもっとも調和が良いとされるV型12気筒エンジンを搭載し、アルミニウム製の軽量な車体に十分な防振・防音を備えることにより、圧倒的な加速と、上質な乗り心地をもたらしている。国内の速度規制に従いゆったりと走りながら、後席に座っていても571馬力の圧倒的出力による底力を感じさせるゆとりを覚えさせた。もし、全力加速をしたなら、猛然たる速度をもたらすであろう潜在能力を伝えてくるクルマだった。

  • ロールス・ロイス「ファントム」

    全力加速をすればV12エンジンが猛然たる力を発揮するはずだ

後席優先の室内は前席との距離が離れているにもかかわらず、前席に座るロールス・ロイス広報担当者との会話は普通の声でできるほど静粛性に優れていた。高級な本革座席の座り心地の豪華さに加え、最新のデジタル機能を生かしたオーディオビジュアルの提供や、程よく冷やされたシャンパンが収納された小型冷蔵庫を備える様子など、上流社会の一端に触れた気にさせてくれた。彼らにとっては、これが日常なのであろう。