焼き芋のウマさも想定外!
一度に焼ける本数は限られているため、回転率は決していいとは言えない。しかし、焼き芋を食べた後に見せるお客様の笑顔が、その満足度を物語っている。
お客様の列が途絶えたところで、筆者も特大の1本をいただくことに。出来立ての焼き芋をストリートで喰らうのは何年ぶりだろうか。味噌汁のような色をした地元の海を思い出しながら、1,000円札で買える温もり、熱い焼き芋を尾崎豊よろしく握りしめる。
いい感じに冷え切った身体に、バッチバチに熱された焼き芋の温かさが染み渡る。お味の方はというと、想像をはるかに超えてくる驚きのウマさで思わず筆者の目ん玉もガン開き。内側から蜜がしたたり落ちており、芋のポテンシャルがあふれ出している。好きな食べ物は焼き芋でお馴染み、乃木坂46の与田祐希さんも大満足間違いなしの完璧な仕上がりだ。焼き芋ってこんなにウマかったっけ…
もはや取材はどうでもよくなるほどのウマさだったが、そもそもなぜこんなことを始めようと思ったのかを今さらながら改めて質問してみる。すると返ってきた答えは「地元である横浜を盛り上げたい、それに尽きますね」。と、どこまでも粋でいなせな鬼いさん。焼き芋である理由も、「営業許可が取得しやすいから」と飄々とした様子だ。
鬼いさんは続けて、「これで火を焚いた状態でも車検通るんですよ!」と、年上の女性にモテそうな屈託のない笑顔でアツアツの石焼きジョークを交えつつ、これからの展望を楽しげに語ってくれた。
「こんなこと思いついてもやる人いないですからね。ライバルは少ないですよ(笑)。今後はサーキットでのイベントとかにも出店したいですけど、今は場所の確保が何より大変なので、夏までにはどこかに腰を据えてカフェに切り替えたいです。あくまでも横浜で、ですけどね。レンタルピットを併設して、クルマ好きが夜でも集まれるような場所を作れたらなぁなんて思ってます。もちろん、利用料はちゃんといただきますけど(笑)」
最後に、鬼いさんにこんな質問を投げかけてみた。
「鬼いさんにとって、ロードスターとは?」
お客様からの差し入れをつまみながら、鬼いさんはこともなげに言った。
「んー……無理をさせてくれるクルマ、ですかね」。
取材を終えた帰り道、石焼き芋のあのメロディを最近耳にしたのは、お笑いコンビ・とろサーモンのお二人の漫才ぐらいしかないことにふと気が付いた。横浜の少年たちにとって、あのメロディと軽トラはもはや寒い季節の定番ではなくなっているのかもしれない。中には、オープンカーの焼き芋屋さんがスタンダードという認識の人が存在する可能性も考えられる。
鬼いさんが今後どこまでロードスターで無理をするのかは見当もつかないが、変わりゆく時代の中で生まれた“オープンカー×焼き芋”という化学反応は、その目で見るなら今のうちであることは確かだ。