寝台特急「北斗星」「カシオペア」の廃止によって、日本の定期列車から姿を消した食堂車……と思われがちだが、食堂車を営業している列車は今もほぼ毎日運行されている。

それが、岐阜県の明知(あけち)鉄道で運行されている急行「大正ロマン号」だ。明知鉄道は、国鉄明知線から転換された第3セクター鉄道で、中央本線の恵那駅から明智駅まで、25.1kmを結んでいる。「大正ロマン号」は月曜を除く毎日運行されている、料金不要の急行列車で、下りの「1号」は、全国で唯一「食堂車」を営業している。

実はこの「食堂車」、ロングシートの気動車に長テーブルを置いただけの簡易食堂車で、利用には5日前までに予約が必要。実態は、各地で運行されているグルメツアー列車とほぼ同じだ。

  • 左:地元の食材を使った多彩なメニューを用意している明知鉄道急行「大正ロマン号」。右:乗降口の横には、「食堂車」と書かれたサボ(サイドボード)も。このマークは戦前まで時刻表で使われていた「和食堂」のマーク

明知鉄道は、1987年から地元の食材をふんだんに使った郷土料理の弁当を車内でいただく「グルメ列車」を運行してきた。「大正ロマン号」は、それを定期列車化したもの。以前はツアー専用列車だったため一般の乗客が乗車できず、日中に2時間以上も時間が空いてしまっていた。そこで、グルメ列車を定期列車併結とし、さらに「第3セクター鉄道唯一の食堂車を連結する急行列車」とすることで、話題作りをはかったのである。時刻表には食堂車のマークが掲載され、特にJTB時刻表には戦前まで使われていた「和食堂」のマークが復刻掲載された。

ほぼ毎日運行するのが食堂車の利点

明知鉄道の伊藤温子氏によれば食堂車の利用者は現在年間約1万人。「食堂車」に衣替えしてからは、運行時刻が時刻表や乗り換え案内アプリなどで確認できるようになり、案内がしやすくなって認知度も高まったという。

「人口減少・少子化に対する経営努力には限界があり、いかに観光客を呼び込めるかが重要です。当社の食堂車は定期列車なので、お客様のご都合に合わせて参加していただけます。料金も2,500円から5,500円と比較的リーズナブルなので、気軽に参加できることも利点です」(伊藤氏)

いわゆるグルメツアー列車は、週末・ハイシーズン限定のことが多いが、明知鉄道は月曜を除く毎日、通年運行していることが特筆される。それが、唯一の食堂車と呼べる所以だ。5日前の時点で予約が7人に満たない場合は原則として営業休止となるが、平日でも2週間後くらいまでは、かなり予約が埋まっている。名古屋から1時間という地の利もあるが、ポイントはリピート率の高さだ。

「近年はリピーターのお客様が増えていて、全メニューの制覇にチャレンジするお客様もいらっしゃいます。特に3月までの土曜限定となる枡酒列車は顔見知りの方も多く、今シーズンはすでにほぼ全列車満席です」(伊藤氏)