• 003のalt要素

    『#声だけ天使』主人公・ケンゾウ(手前)ら (C)AbemaTV

斬新な物語の中に普遍的な恋愛要素

――ストーリーはどのように決めたのでしょうか?

横内:最初に藤田社長に言われたのは、若者に向けてということだけでした。今のテレビドラマの行き詰まり…例えば、実力があって面白い小劇場の俳優は途中までキャスティングされていたのに、いろいろな都合で直前でひっくり返されたりとか、そういうことをしてたら面白くならないだろうなと思っていたところに、企画の段階から関われるのは幸せだなと思いました。

藤田 :優れた脚本ありきでドラマ作りをしていきたいと考え、まず脚本を作ることから始めました。なので、横内さんにお願いしたときは何も決まってない状態でした。

――横内さんは、ここまで0から作るというのは初めてでしたか?

横内:芝居でもだれが出演するかだいたい決まっているので、ここまで0からというのは初めてだと思います。そして、青春ドラマという方向性を聞き、早い段階で声優学校を舞台にした『#声だけ天使』の原型を提案させていただきました。途中までは『#声だけ彼氏』って言ってたんですが。

――今の声優業界の現実を反映させた声優学校の物語というのは、斬新だなと感じました。

藤田 :そこは新しいところだと思いますが、恋愛というどの時代においても変わらないものを描いています。秋元康さんになぜ若い子たちの気持ちを捉えられるのか聞いたことがあり、そのときに「恋愛は普遍的で何も変わらない」と仰っていました。我々は10代、20代の人たちが夢中になるようなドラマを作りたいと思っているので、恋愛という普遍的なテーマを入れ込んでいます。加えて、声だけ聞こえて姿が見えないという関係は、より切なく、相手のことを強く思う要素になったと思います。

横内:秋元さんほどの経験値はないけど、長く劇に携わってきて同じことは感じる。形は変わっているし、組み合わせはかなり自由になってきてはいるけど、恋愛はそんなに変わってないと思う。『#声だけ天使』は"声優"というのはキャッチ―ですが、1つはオーソドックスな骨組みに。単純に言うと、眠り姫を救出する王子様の物語ですから。白馬に乗った王子様ではなく、何の武器もなく声だけが彼女にとって手がかりになるというのは変わってますが、基本の"お姫様救出"というテーマは守ろうと決めていました。

  • 004のalt要素

リアルを追及したキャスト選び

――斬新だと思っていましたが、恋愛という普遍的な要素があるから多くの人に訴えかけるものがあるんですね。

藤田 :その一方で、声優ブームは昨今のトレンド。目指す人が増えているのも確かで、また、声が好きになってその声優のファンになる人も増えている。そういう最近の現象を描きたいと思いました。劇中で主人公たちはネットでボイスサービスを始めますが、そういった今の若者らしいチャレンジの要素も反映しています。

――最近の声優さんは声だけでなくビジュアルも重要視されているという、そこに踏み込んだ物語は本当に今っぽいと感じました。

藤田 :横内さんから、今の声優さんは声だけでオーディションの合否が決まるのではなく、書類の顔写真で落とされることもあると聞いて、主人公はイケメンではダメなんだと。

横内:主人公はやっぱりイケメンの方がいいんじゃないかと思ったんですが、そうすると話がおかしくなってしまう。だからイケメンじゃなくていいんだと、監督もプロデューサーもそう判断し、作品に合った人を選ぶということになりました。

藤田 :そういったキャストを決定する過程においても、とても意志を感じる作品にできて、すごく満足しています。

  • 005のalt要素

脚本家が明かす最高の制作環境

横内:ストーリーにおいて会議でものすごく話し合ったポイントがあるんですが、それは主人公が童貞の方がいいのか、童貞じゃない方がいいのかということ。結局、自分の直観として、主人公が童貞なんて嫌だと。女子を救出するのに童貞というのはどうなんだと。それに、経験はあってもリアルが充実してないっていうのがドラマなんじゃないかとも思い、童貞ではないという設定にしました。

藤田 :最後にお姫様を救出する物語において、童貞ではやっぱり頼りなく説得力にかけるなと。筋の通った物語にしたかったので。でも、放送内で童貞じゃないことが発覚したときに、「童貞だと思っていたのに」と驚いたり、怒ったりする視聴者がけっこういましたね。

横内:ほかの現場だと、視聴者から反対意見が出てきたらストーリーを変えようという話が出てくる。でも作家としては、そこを変えてしまうと本来行きつくべきところにいかないんだよなって思う。そういう途中の視聴者の反応や視聴率が作り手側にすごい刃を突き付けてくるようになってきているのは恐ろしい。もちろん、それをどう乗り越えるかというのは必要なんですが。そういった点でも今回、本当に素晴らしい制作環境だったということは声を大にして言いたい。本質を守ってくれた。ほかのクリエイターにとってもうらやましい環境だと思います。

藤田 :そういう思い通りにならなかった経験を聞いた時に、AbemaTVとしては望むところだなと。地上波のテレビと同じやり方でドラマを作ってもことをやっても仕方がないし、逆にいい差別化にもなると考えました。監督は、全部脚本ができて結末が見えている状態で1話を作らないと、ストーリー全体の整合性がとれなくなると仰っていたので、わかったと。いい作品を作るためということで全部意見を聞き入れて、逆に作品づくりに対して言い訳できない環境、状況になったと思います。