また透過ディスプレイを使った「スマートスタジアム」では、スタジアムのVIPラウンジを想定したスペースで、試合を眺めたまま、視界を遮ることなく選手の情報を音声入力で表示させるといった提案型展示を体験できる。これはまだ開発段階とのことだったが、透過スクリーンを介して開催中のイベントの追加情報を表示するというのは可能性が大きいように思える。スポーツだけでなく、例えば観劇で演者のセリフをテキスト化して自動でテロップのように表示したり、翻訳するといった活用もできそうだ。

  • 透過ディスプレイなので視界を妨げずに情報が表示できる。一種のARと言ってもいいだろう。VIPラウンジにふさわしく、手元のスマートフォンを使わずに音声操作が想定されている。ディスプレイとマイク、音声認識のいずれにもNTTグループ内で研究・開発された技術が使われている

  • 3Dホログラム「dreamoc」を利用して元メジャーリーガーの岩村明憲、川上憲伸両氏の対決を4方向から別アングルで楽しめる。これは小さなディスプレイだが、もっと大きなものを利用することも検討されているようだ

なぜドコモはスポーツに力を入れているのか

2016年に日本に上陸したDAZNは、2017年2月からドコモと提携して「DAZN for docomo」を開始。その後も日本のさまざまなスポーツ配信を取り込み、昨年7月には100万契約を超えたことを明らかにしている。DAZNでしか見られないコンテンツも増えており、かつてテレビが独占していたスポーツ配信は、黒船であるDAZNの躍進により、着実にネットでの市民権を得ていると言える。

では、DAZNと提携し、今回のSPORTS LOUNGEを展開するなど、スポーツ配信に大きく力を入れているドコモの狙いは何であろうか。ドコモの吉澤社長はDAZNとの提携の目的として「スポーツ観戦の多様化」を挙げている。もう少し噛み砕いていえば、スマートフォンやタブレットを利用し、場所、時間、デバイスを選ばずにコンテンツを楽しめるようにすることで、自宅か会場まで行かなければ楽しめなかったスポーツを、いつでもどこでも楽しむというスタイルへの変革だ。

これは近年NTTグループが公開してきた新技術の傾向からも明らかだ。NTTグループでは5Gをはじめ、今回DAZN for docomo SPORTS LOUNGEでも公開されている3Dホログラムや透過ディスプレイ、さらにはリアルタイム中継/同期システムなどの技術開発を進めており、スタジアム等で大量のスマートフォンに同時にコンテンツを配信したり、実際にスタジアムを見下ろしているような臨場感あふれるライブビューイング(LV)など、これまでのスポーツ観戦になかったスタイルの提案を続けている。もちろんその先には2020年の東京オリンピックという一大イベントが控えているわけだ。

  • 暗くてわかりにくいが、今年のR&Dフォーラムでは、大型の3Dホログラムディスプレイでスケートや空手の試合が展示されていた。今回SPORTS LOUNGEで展示されている技術の多くは、ここ数年のNTT R&Dフォーラムで展示されていたものが基礎になっている

これまでスポーツ観戦といえば、大半の人は主にテレビを観るものだったが、テレビは主に自宅など、場所に紐づけられたデバイスだ。しかし視聴デバイスとしてスマートフォンやタブレットを適用することで、空間的な制約が取り除かれ、視聴機会も増える。さらにスタジアムやLV会場でも、LTEや5Gなどを使い、新しい配信スタイルを定着させる。こうしてスポーツという一分野からではあるが、放送の主役をテレビ局から携帯電話事業者へと奪い取ろうというのが、ドコモが見据えた戦略ではないだろうか。