2018年2月14日、羽田空港内のJALメンテナンスセンターで、エアバスA350-1000の飛行試験2号機(MSN065、登録記号F-WLXV)が報道公開された。同機を取材する機会が得られたので、筆者が連載している「航空機の技術とメカニズムの裏側」に要所要所でひもづける形で、A350-1000のディテールを、主に技術的・メカニズム的な観点から見ていこう。
前編では、機体の仕様、客室、ギャレーとラバトリー、クルーレストの構造を紹介した。後編となる本稿では、機体構造と扉、降着装置と灯火類、コックピットを紹介しよう。
機体構造と扉
A350-1000はA350-900をストレッチしたモデルということになるが、胴体が長くなっただけでなく、主翼にも違いがある。機体が大きく、重くなった分だけ揚力も増やしたわけだ。ただし翼幅は同じで、-1000は後縁部を拡げる形になっているという。
言い換えれば、-1000のほうがいくらか翼弦長が伸びていることになる。主翼そのものを別設計にすると、開発・製造のいずれにおいてもコストアップ要因になるだろう。そこで最大限の共通性を持たせた結果、こうしたものと思われる(「航空機の技術とメカニズムの裏側」第103回)。しかし、後縁部を拡張すれば翼断面が変わるわけで、空力的な影響はどうだったのだろうか、と気になるところ。
A350の機体構造は、53%が炭素繊維複合材料で作られている。残りはチタニウム(14%)、アルミ・リチウム合金またはアルミ合金(19%)、スチール(6%)、その他(8%)といった内訳(「航空機の技術とメカニズムの裏側」第6回・第7回 )。全体的には「筒」だが、水平尾翼取付部の周囲は意外と複雑な造形になっている。
尾部の先端が尖っていないのは、ここにAPU(Auxiliary Power Unit)の排気口が付いているため(「航空機の技術とメカニズムの裏側」第16回)。そのAPUの排気口の下に、灯火が付いている様子が見て取れる。ここは空気抵抗をあまり気にしなくてもよいようで、灯火の取り付けパネルはボルトがむき出しだ。
客室の扉は、目下の一般的なスタイルである、外側に振り出して開くタイプ(「航空機の技術とメカニズムの裏側」第38回)。だから、扉を開閉する際に支えと案内の機能を受け持つリンクが上部に付いている。扉の縁には、閉めた際に固定するためのラッチが付いていて、機体側にはそれと噛み合う受け金が並んでいる。ボーイング787や三菱MRJも同じ仕組みだ。
上の写真では、扉は手前に向けて動いてきて開口部にはまるので、扉の手前側側面に付いているラッチは、筆者の背後にある受け金に噛み合うことになる。
扉には雨樋が付いているが、新幹線電車のそれと同じく、扉の上にL字型の部材を取り付けただけのシンプルなものだ。ただし新幹線電車と違うのは、前下がりになっているところ。水はけと空気抵抗低減の両立を考慮した結果だろうか。下の写真では、右端にL2ドア(左舷側・前方から2番目)と、その上に付いた雨樋が見える。
その扉を内側から見たのが以下の写真。下部の張り出しは脱出用スライドで、その上の「く」の字型の張り出しは機器・配線類のカバー。その上部に上向きのレバーが付いているが、撮影時のポジションは当然ながら「Disarmed」。離陸前にこれを左側の「Armed」側に倒すと、扉を開いた時に脱出用スライドが自動展開する(「航空機の技術とメカニズムの裏側」第38回)。その扉の左側にあるのが、客室乗務員用のジャンプシート。
貨物室扉も、一般的な上に向けてガバッと開くタイプ(「航空機の技術とメカニズムの裏側」第38回)。上に蝶番が付いていて、固定するためのラッチと受け金(全部で8組ある)は下側になる。下の写真を見ると、開いた貨物室扉の縁にラッチが並んでいる様子がわかる。