一方で導入側の小売店も、自身で試行錯誤を続けている。パナソニックの実証実験相手であるトライアルカンパニーは、スマートカメラを活用した商品の動向分析を実店舗の「スーパーセンタートライアル アイランドシティ店」で2月14日にスタートした。こちらもパナソニックと、Remmo社の3社で行う取り組みだが、トライアルカンパニーのシステム子会社「ティー・アール・イー」で独自開発した技術も活用するという。

店内には計700台のカメラを設置。そのうち100台はパナソニックのスマートカメラで、来店者の属性や行動を分析する。不特定多数の撮影・分析にはプライバシーの懸念があるが、このカメラではデバイス内で人物の検出と年齢・性別を分析し、その結果のみがクラウド上に送信される。映像自体はデバイス内で完結するため、消費者にとって、そしてネットワーク負荷を気にする小売店にとっても優しい作りとなっている。

  • スマートカメラ(左)で分析したデータ(右、デモ)。ヒートマップ化することで、導線分析なども可能になる

また、残りの600台についてはVAIO社製スマートフォンを活用して、トライアルカンパニーが開発したAIによる画像認識で商品棚の陳列状況・購買行動分析を行う。陳列してある商品を顧客が取った場合に、個体を検知・認識して商品の欠品状況や鮮度落ちなどを把握する。カメラとしてスマートフォンを利用しているものの、こちらは映像データを店舗内で一旦集約して分析する。

  • VAIO Phoneを活用して商品管理を行う

現時点ではデータの収集・集積段階であり、欠品している棚の従業員への通知や、鮮度落ちの商品入れ替えなどは実業務として行っていない。ただ、こうしたAIによる商品管理の仕組みは米Amazonのスマートストア「Amazon Go」でも行われており、「RFIDありきというよりも、さまざまな技術を活用して多角的にスマートストア化を目指したい」(説明を担当したトライアル・シェアードサービス 代表取締役社長 矢野 博幸氏)。

トライアルカンパニーは全国展開する中堅小売業だが、流通業向けにITシステムをこれまでも開発してきた。この画像認識技術や分析ツールを流通業向けに拡販していく構想もあるとしており、実店舗を運営する立場だからこそわかる悩みを解決するソリューションの存在は、他社にとっても脅威となりそうだ。

MS人脈がAzure導入に影響?

これらの取り組みの裏には、すべて「クラウド」が存在する。米AmazonのAWS、米MicrosoftのMicrosoft Azure、米GoogleのGoogle Cloud Platformが主なプレイヤーだが、ウォークスルー型RFIDソリューションではAzureが利用されていた。

というのも、日本マイクロソフト幹部が当日、登壇こそしなかったものの、会見場に姿を見せていた。パナソニックの足立氏が、ソリューションの説明で「経産省指導のもと、(現場のデバイスから)吸い上げたデータを国際規格に準じて保管する」と語っていたように、今のITソリューションでいちばん大切なものはデータだ。

冒頭の経産省 藤木氏も「全体が効率化される、そこで合理化される、データ共有で新しい価値が生まれる流通の効率化」と語る。国としても、もはやクラウド基盤を活用することは当たり前であり、むしろ「データを活用して何を生み出すか」を念頭に置いている。

パナソニックでB2B事業の主担当者であるコネクティッドソリューションズの社長 樋口 泰行氏は前日本マイクロソフト 会長。この新ソリューションでAzureを採用したことは、ある意味で当然の流れとも言えるだろう。一方で協業相手のトライアルカンパニーは、データ分析基盤に最大手であるAWSを活用しているとみられる。

米国では、小売大手のウォルマートが、自社データセンター+Azureの利用を公言する一方で、取引先を含めAWSの使用を禁じたとも言われている。日本でも楽天がウォルマートと提携し、ソフトバンクらがイオンと提携するなど、小売・流通で「対Amazon」の構図が鮮明となっている。もちろん、AWSは別組織化されており、データ機密に関する取扱レギュレーションも厳格だ。それは、金融業の最大手、三菱東京UFJ銀行がAWSを軸にサービス開発に取り組む方針を打ち出したことからも理解できるものだ。

しかし、ECの黒船であるAmazonというポジションは、やはり心象的にAWSへの抵抗感も生むだろう。そうした環境で対抗するMicrosoftとGoogleはどう立ち振る舞うのか。三大都市圏から離れた福岡の地で垣間見えた"クラウド戦争"が流通改革を後押しできるか、期待したいところだ。