日本の流通業が飛躍するための礎、それがスマートストアであり、RFIDだ――。こう語るのは、経済産業省 商務・サービスグループ 商務・サービス審議官の藤木 俊光氏。ECサイトの生活インフラ化や、Amazon Goや中国ですでに稼働している無人小売店など、消費のあり方が大きく変わる中で、各プレイヤーはどう生き残るべきなのか。
国内でも、福岡県に拠点を構える小売のトライアルカンパニーとパナソニック スマートファクトリーソリューションズが2月19日、共同で業界初のウォークスルー型RFID会計ソリューションの実証実験を開始した。
ゲートを通過するだけで精算完了
このソリューションでは、買い物バッグをレーン内の読み取り部にかざしながら歩くだけで商品の判別、会計を完了する。利用イメージは下記の動画を確認するのがわかりやすいが、プリペイドカードの読み取りからRFIDタグが付いた商品の判別、精算結果の表示までわずか10秒のうちに収まっている。
1月の特集「変わる、パナソニック。」でも取り上げた、翻訳機能付きメガホン「メガホンヤク」のデザイナーである松本 宏之氏のチームメンバーである大澤 香織氏がワーキングプロトタイプのデザインを担当し、2カ月足らずで実働にこぎつけたという。松本氏らのチームは、羽田空港で稼働する顔認証ゲートのデザインにも携わっているが、こうした短期間でのプロダクトの実現はよくあることだという。
実証実験は福岡県東区にあるトライアルカンパニー本社ビルの「トライアル ラボ店」で行われるが、実際に現場に行くことなく、写真などから「打ちっぱなしのコンクリートなど、場所の雰囲気に合わせてデザインした」(大澤氏)と話す。
ただし、ワーキングプロトタイプでありながら、「多店舗展開を想定してプリペイドカードの読み取り部や会計表示のディスプレイ部などを可動式にする」「コンビニ弁当で最大サイズに近いA4サイズでもRFIDの読み取り部を通過できるように」(大澤氏)といったこだわりを見せている。
2カ月足らずという実装期間の短さもあり、安定してRFIDを読み取れるのは3個の商品まで。また現状では、RFIDは金属や液体が近くにある場合に読み取りが難しくなることもあり、筆者が「大きいお弁当」と「(アルミの)ポテトチップス」「(液体かつ金属の)コーヒー缶」「(液体の)ペットボトル」という劣悪な環境で実験したところ、4個入れたはずが3個しか認識できない時があった。ただ、4回試行したうちの1回の失敗であり、急造品としては十分に合格点だろう。
実証実験ということもあるが、トライアル ラボ店は社員向けの実験店舗であり、万引きリスクがない。万が一個数がズレてしまっていても、失敗データを確実に残せる可能性が高いというのも実証実験を始められた一つの要因だろう。
パナソニックの立ち位置
電子タグのRFIDは、従来のバーコードからの置き換えを目指すものとして期待されている。冒頭の経済産業省が音頭を取り、セブン-イレブンやファミリーマート、ローソンなど小売各社、そしてパナソニックや日本電気(NEC)、富士通などのベンダー各社などが協力して普及を目指している。
現在の電子タグ製造コストは1枚10数円のコストがかかる。ただ、普及にあたっては「10円チョコでも運用可能な、商品価値が下がらない形で運用したい」(パナソニック 執行役員 青田 広幸氏)。RFIDが1円にも満たないコストになれば、バーコードのプリント感覚で利用されるようになる。
RFIDの魅力は、従来は製品単位で管理されていたものが商品一つひとつの"個体管理"ができるようになる。例えばお弁当で(万が一)おかずが抜けていた場合になぜその事態が起きたのか工場側で原因究明が可能になる。また、賞味期限が切れてしまった個体をラック内で検知するといったこともできるため、店員が全商品を確認する必要がなくなり、ロボティクスとの組み合わせでは商品入れ替えの自動化も目指せるというわけだ。
経産省が2017年4月に公表した「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」は、まさにこうした付加価値を小売の現場だけでなく、サプライチェーン全体の最適化を目指したもので、1年間でコンビニ事業者が取り扱うアイテム1000億個すべてに電子タグを貼付する未来を描いている。
目標年度は2025年と遠いようですぐそこの未来。これを実施するには、店頭でバーコードのように貼付するよりも、商品の製造や機器ベンダーの協力が必要だ。そのため、前述の通り流通でさまざまな機器を納入する電機各社や大日本印刷、凸版印刷といったプリンティングベンダーがこの宣言に参画している。
中でも前のめりなのがパナソニックだ。この宣言でも、たたき台としてローソンとの共同実験「レジロボ」の成果報告を行っている。1月の特集でも取り上げたパナソニック スマートファクトリーソリューションズ 小売・物流システムビジネスユニットのビジネスユニット長であり、取締役の足立 秀人氏は、今回の実証実験でも「経産省指導のもと、一緒にやってる。2018年度以降も同様の取り組みで進めていく」と話す。
パナソニックは、メーカーから物流、小売、消費者まですべてのレイヤーで接点を持つ。その立ち位置を活かして一気通貫で統合プラットフォームを提供できるというのが前のめりになっている理由だ。もちろん、デバイスを作れる強みから、今回のウォークスルー型ソリューションに加えてレジロボでも提供したスマートシェルフなど、ハードウェアとソフトウェアの融合で価値を提供していく腹づもりだ。これこそが、パナソニックの最大の強みなのだろう。