オズマピーアールは2017年10月、テレビ東京制作と広報・PR担当のデジタルコミュニケーション力強化支援で協業すると発表した。1月19日には、この協業の中から生まれた企画番組「バズらせ~人気者になる方法教えます~」のネット配信を行った。
企業の広報担当者をはじめとする“人気者になりたい人”がYouTuberやインスタグラマーから指南を受けながら実際にネット上で人気を獲得することができるのかを試す実験的な番組で、2月26日にはその結果を検証する第2弾の番組をネット配信するという。
人気者にスポットライトを当てる番組が世の中に溢れるなか、これから人気者になろうとするいわば“素人”の成長ストーリーを描くというコンセプトは今までにない斬新さを持つが、こうした取り組みの背景には、インフルエンサーやアドテクノロジーに依存する企業のマーケティング・コミュニケーションへのアンチテーゼがあるのだという。
今回の試みの背景や狙いについて、番組を企画したテレビ東京制作のプロデューサーである山田耕三氏と、オズマピーアール ソリューション開発部のシニアディレクターである一ノ瀬寿人氏に話を聞いた。
企業はネットインフルエンサーから何を学ぶべきか
1月19日にニコニコ生放送、YouTube Live、Facebook Liveなどで生配信された番組「バズらせ~人気者になる方法教えます~」は、学生向け就職支援サービスなどを展開するサポーターズの広報を担当する上野美菜子氏をはじめ、駆け出しのYouTuber、若手のタレントや芸人、シンガーソングライターなどが参加。それぞれの目標や長所、短所などを引き出した上でどのようにすれば人気を獲得できるかを人気YouTuberやインタグラマーなどがディスカッションするという形で進行し、インフルエンサーたちがメンターの役割を果たしながら参加者を人気者へと成長させるというストーリーだ。
なぜ、このようなコンセプトが生まれたのか。それは、なぜ、広報やマーケティング・コミュニケーションを手がけるオズマピーアールとメディア・コンテンツ事業を手がけるテレビ東京制作が業務提携をしたのかを紐解くことから見えてくる。
マーケティング・コミュニケーションのデジタル化、ソーシャル化が進む中で、デジタルコンテンツの企画制作を強化したいというオズマピーアールと、インターネットとテレビの融合に挑戦していたテレビ東京制作の目標が一致した中で生まれた今回の事業提携。2011年頃からデジタルクリエイティブの世界に挑戦していた山田氏は、特にインターネットが持つライブレスポンスの高さに魅力を感じていたのだという。
「実は、ネットのほうがアナログではないかと。古くからある人情や正直さといった考えが大事になってくる。テレビは、視聴者の対象がマスであることから制作過程がブラックボックスなので、制作者が視聴者を“ナメて”いても視聴者=マスには伝わらない。しかし、ネットでのコミュニケーションは制作者の姿勢がダイレクトにユーザーに伝わってしまう。世の中は“ネットは過激”という考えがあるかもしれないが、実際のところ成功しているネットインフルエンサーはセルフプロデュースをしっかりしていて、自分自身というブランドを守るためにコンサバティブになる傾向があるのではないだろうか。すごくしっかりと自分の立ち位置やファンであるユーザーのこと、そしてその中での自分の振る舞いを考えている」(山田氏)
山田氏はこうした考えを示した上で、今回行っている番組の試みについては、成功のための方法論が確立していない「ネットで人気ものになるための方法」というテーマについて、「“視聴者に対して嘘をつかず正直に、真摯に、人情味を出していく”というアプローチが不可欠なのだ」と語る。実はこのアプローチは、企業のマーケティング・コミュニケーションが世の中に対してあるべき姿勢と全く同じものだ。一ノ瀬氏は次のように説明する。
「“嘘を言ってはいけない”“世の中の空気を捉えながら正確な情報を発信する”というのは、企業の広報、マーケティング・コミュニケーションにおいても全く同じこと。インフルエンサーの方々はネット上でそれをしっかりとやっているから支持される。企業の広報はリアルでは真摯な姿勢でやっているのかもしれないが、ネットは別世界でどう振る舞えばいいのかわからないという人は少なくない。そこで、リアルとネットでノウハウを交換し合えば、新しい発見が双方で得られるのではないかと考えている」(一ノ瀬氏)
メディアというバイアスを介して情報発信をしてきた時代から、企業と消費者がダイレクトに繋がる時代へと変化する中で、企業は自分たちと消費者がネット上ではOne to Oneで繋がっているものなのだということに気が付き始めた。こうした中で、一ノ瀬氏が語るようにネットでの立ち振る舞いに悩んでいる企業は少なくない。こうした中で、ネットインフルエンサーに学ぶことで、企業にとっても新しい方向性を見いだせるのではないかというのが、この番組の狙いだ。
「自分の責任において、消費者と真摯に向き合う覚悟があるかどうかが重要だ」(山田氏)