まだスタートを切ったばかり
それでもなお、リッツとオレオの穴は埋めきれていない。親会社となる山崎製パンの直近の決算短信にも「ビスケットクラッカーの売上逸失が大きく、売上減となりました」と記述されている。リッツとオレオの存在の大きさがわかるコメントだ。
だが、担当者は現状について悲観はしていない。ヤマザキビスケットは昨年12月に本当のスタートを切ったばかりという認識だからだ。
実は昨年11月末までモンデリーズとの契約上、類似品の製造・販売が禁じられていた。呪縛がとけたのは昨年12月。そこに合わせてルヴァンの新作「ルヴァンプライム」とオレオに代わる新商品「ノアール」を出すことができたのだ。
ルヴァンプライムは丸型のクラッカー。丸型にしたことで軽い食感を出せたのが特徴だ。岡田均マーケティング部商品開発課主任によると「製品の質や食感などを考えるとこれが理想の形。ルヴァンプライムを本筋としつつも、ファンの付いた青ルヴァンも同時に売っていきたい」とルヴァンプライムへの期待を話す。
ノアールはオレオに代わる商品だ。ブラックココアのクッキーでバニラクリームをサンドしている。サックリとした食感が特徴的で、バニラクリームの口どけ感も調整した。
これでようやく主要商品が揃ったことになる。須藤敦寛マーケティング部商品開発課課長代理によると「軸となる主要商品があれば、スーパーマーケットや量販店で特売を実施してもらえることもある」とし、販売戦略上、大きな効果があると見込まれるとのことだ。
ヤマザキビスケットの今
ヤマザキビスケットは今、リッツ、オレオと戦う準備が整ったばかりといえる。自ら育て上げてきたブランドと戦うというのは、何とも皮肉なものだが、これから先、どういったポイントが明暗を分けると見ているのか。
その点について豊間根氏も須藤氏も異口同音に強調するのが、おいしさという"品質"だ。リッツ、オレオともに、ブランド名は以前と同じだが、製造国は海外であり、日本ではない。作り手が変われば味も変わるし、食感も変わる。マーケティング調査からもそれを示すデータがあるとし、何十年もかけて培ってきた味へのこだわりをルヴァン、ノアールに注ぎ込むことで勝てると見ているという。
時間をかけた戦いとなりそうだが、当面はスーパーマーケットや量販店の棚替えとなる春が運命の分かれ目となる。この時期に採用されれば、定番商品として半年もしくは1年陳列されることになるという。採用店舗を増やせれば、戦いはその分有利になっていく。
リッツとルヴァン、オレオとノアール、今年の春は店舗の菓子コーナーに注目したい。小売店の棚から見える無言の戦い。時を経るごとに優劣は決まっていきそうだ。ヤマザキビスケットの見立てどおり品質が突破口となり、無言の戦いを制することができるだろうか。