鉄道ファンなら子どもたちはもちろん、大人だって「シンカリオン」の名前を一度は見聞きしただろう。新幹線車両がロボットに変形するキャラクターで、「プラレール」シリーズとしても販売される玩具売り場の定番商品のひとつ。商品のポスターを駅などで見かけるし、大宮の鉄道博物館、名古屋のリニア・鉄道館、京都鉄道博物館でも展示されていた。2015年に発売され、もう3年も活躍中なのだ。名前は知らなくても、男の子の親なら「新幹線がロボットになっちゃうおもちゃ」くらいは知っている……はず!
その「シンカリオン」が、2018年1月からアニメ『新幹線変形ロボ シンカリオン THE ANIMATION』として、TBSテレビ系列で放送されている。「どうせ子ども向けの、おもちゃの宣伝のようなアニメだろうな」と思いつつ、とりあえず第1話を拝見したら……いやいやどうして、面白いじゃありませんか。
なにしろ、大事な"つかみ"となる第1話の冒頭が保線シーンなのだ。子どもたちが新幹線の登場を期待するところで、黄色いマルタイ(マルチプルタイタンパー。線路の砂利を整える機械)が出てくる。なんてマニアック。その上、日々の鉄道を支える保線スタッフを最初に出してくるなんて。鉄道職員への尊敬と愛を感じる。
そう、この場面で「俺たちはリアリティを重視してるんだぜ」と高らかに宣言しているのだ。やるな……。これは観る側も本気にならざるをえない。
あの作品に似ている!? 王道を行くヒーローアニメに
主人公は小学校5年生の速杉ハヤト君。新幹線が大好きでゲームも好き。これは玩具の購買層と合わせた定番的な設定といえる。両親と妹の4人暮らしで、母は美しく優しく、妹はかわいく賢く、父は気が抜けたお疲れパパ。表向きは鉄道博物館の職員だけど、じつは「新幹線超進化研究所」の指導長だ。うだつの上がらない男を装い、裏ではキリッと責任感と決断力を見せる。いいねぇ。『必殺仕事人』の中村主水パターン。子どもたちはハヤトに、大人はパパに感情移入して観ると思う。
さて、ハヤトはある日、緊急出勤した父の入館証を届けに鉄道博物館を訪れる。しかし地下に迷い込み、父親の真の任務を知ることに。さらに「シンカリオン E5はやぶさ」の運転士として適正率が高いことも判明。そこに世界の平和を乱す事件が発生する。ハヤトは「お父さんの役に立ちたい」との思いでシンカリオンに搭乗し、巨大ロボットに変形させて未知の敵を撃退する。このあたり、もうニヤニヤしながら見てしまう。
あの人気アニメに似ているなあ……。いや、この展開はもはや少年が主人公のロボットアニメの定番だな。その定番を、なんのてらいもなくさらっと割り切って描いてしまうあたり、むしろ気持ちいいくらいだ。子どもたちなら主役メカがかっこよく、主人公が敵をやっつけてくれてスカッとすれば満足。説明なんかいらない。
第4話まで観た時点で、敵の正体も目的もわからない。新幹線の線路に正体不明の「漆黒の新幹線」が現れ、蛾の鱗粉のような物体をまき散らすと巨大怪物体が現れる。第1話で「出現は10年前、人間の知識では計り知れないテクノロジーを持っている」と語られている。公式サイトでも「謎のエージェント」とされており、「ビャッコ」「ゲンブ」「セイリュウ」の名前があった。
巨大怪物体の姿は一定していない。第1話で捕獲された怪物体はロボット風。鉄橋、踏切、鉄道施設や蒸気機関車のパーツで形成されていた。回想シーンには土偶タイプの怪物体が多数登場している。2015年に玩具の誕生と合わせて展開されたコミック版を踏襲しているようだ。第2話の怪物体は遊園地の観覧車などが化けたものだった。かと思えば、第3話と第4話の怪物体は獣人のような姿だった。
出現した怪物体は宇宙衛星から放射された「捕縛フィールド」で隔離される。シンカリオンは車両モードでスピードを上げ、司令室の「制限解除」指令で捕縛フィールド方面に分岐し、輝くレールに乗って時速1,200km以上に達する。ハヤトは「Suica」に似たパス「Shinca」をコントローラーにセットし、「チェンジ! シンカリオン!」と叫ぶ。スマートスピーカーか!?
シンカリオンは新幹線車両からロボットにチェンジし、巨大怪物体と戦う。分岐レールにICカード乗車券、そして「シンカリオン E5系はやぶさ」の必殺技は「グランクロス」。E5系の最上級座席「グランクラス」にちなんでいる。たしかに最強だ。鉄道のテイストを違和感なく取り入れている。「新幹線に乗ったら、僕も戦えるかもしれない!」なんて、子どもたちは興奮しちゃうんだろうな。