こうして放送に向けて取材・編集を行う直前に、突然の訃報が制作チームを襲った。プロデューサーを務めていたテレパックの村上研一郎さんが急死したのだ。
村上さんと言えば、いつもニコニコ、そして100キロを超える巨漢がトレードマークで、制作スタッフから出演者まで広く愛される名物プロデューサーだったという。「打ち合わせの時、いつも張江さんと村上さんは、健康話で盛り上がっていました。張江さんは『村上さん、やせたほうがいいよ。お互い若くないんだから』と笑いながら2人で話していたのを今も鮮明に覚えています」(山本氏)。
しかし、去年の12月25日。村上さんは連絡もなく出社せず、自宅で亡くなっているのを発見された。死因は、虚血性心疾患。49歳という早すぎる死だった。
村上さんは、ドキュメンタリードラマ『幸せなら手をたたこう』(NHK)で2016年のギャラクシー賞奨励賞を受賞し、17年は南果歩主演の連続ドラマ『定年女子』(同)を制作。さらに、今夏放送予定のNHKのスペシャルドラマと、次々に企画が採択され、社内では「ノリにノッている」と大きな期待が寄せられていたという。
1月に行われた「偲ぶ会」には、予想を上回る約200人が出席し、会場の中華料理屋はギュウギュウ詰めに。山本氏は「皆さんが口々に『仕事熱心な人じゃなかった』と(笑)。だから、悲しくて涙が出るという感じじゃないんですよ。悲しいけど涙が出ない、笑顔が絶えない偲ぶ会でした」と、その人柄を教えてくれた。張江氏も、泣いてはいけないと涙をこらえながら、送る言葉で会場の笑いをとっていたそうだ。
村上さんの遺志を継いで…
そんな性格もあって、「村上さんは人付き合いがすごく良くて、"雑談の帝王"のような方。だから誰にも壁を作らず、隔たりなく話せるっていうのが魅力なんですよ」といい、「『ザ・ノンフィクション』で今回の企画が通ったのは、村上さんの力が大きいと思っています。後輩思いの心優しい先輩で、『好きなようにしていい』と思うようにやらせてくれました。それでいて、締めるところは締めるというスタイル。僕にとってはすごく大切な先輩でした」と、あらためて惜しんだ。
テレパックは、ドラマを得意とする制作会社だが、村上さんは生前「ドラマだけでなく、情報番組や、ドキュメンタリー番組など他ジャンルにも力を入れたい」と、さまざまな企画をテレビ局にプレゼンしていたそう。山本氏は「その村上さん情熱が結実した、ドラマ以外で最初の作品が、今回の『わかりあえない食卓』です」と力説し、偉大な先輩の遺志を受け継ぐ決意を語っている。