日本と欧米に続き、12月には中国をはじめとするアジア諸国での販売を開始。各地域での販売体制の整備やプロモーション活動の強化を図り、グローバル展開をスタートさせた。

「実際の商談では、新たなニーズがあることを実感できた。多くの企業が、環境負荷の低減に向けた取り組みを進めているが、高速ラインインクジェットならではの低消費電力による環境性能の訴求が、効果的であることがわかってきた。100枚/分の高速印刷を実現する基本性能の強みに加え、レーザー方式の複写機に比べて消費電力量を大幅に低減できるメリットを訴える形で、コミュニケーションを強化している」(瀬木氏)

また、「日本市場特有のニーズとして、サーバーレス認証印刷オプションを追加で用意した」というように、市場ごとの要求にあわせた対応も開始している。欧米などではセキュリティ管理の観点から、サーバーによる集中管理で認証を行うのが一般的だが、日本ではサーバーレスで利用したいというニーズが高いため、当初はなかった機能を追加で用意したという。

こうしたニーズは、企業ユーザーからの引き合いが増加するのに伴って発生したものだ。同社は当初、高速印刷用途での利用が多いと見込んでいたが、今回の新機能追加は、オフィスからの引き合いが予想以上に多いことを裏付けるものだといえよう。既存の複合機に対するコストやスピードへの不満が、エプソンの高速ラインインクジェット複合機の販売に弾みをつけているようだ。

通期は利益減の予想も「成長基調の売上をもとに投資」

エプソンは2017年度の通期業績見通しを修正。売上収益は400億円増の1兆1100億円、事業利益は据え置いて790億円、当期利益は70億円減の510億円とした。なかでも、大容量インクタンクモデルや高速ラインインクジェット複合機が含まれるプリンティングソリューションズは、売上収益で230億円増の7450億円へと上方修正しており、事業利益は10億円減の1000億円へと修正した。

瀬木氏は「プリンティングソリューションズをはじめとして、事業環境に変化があったものの、成長のベースとなる売上収益は着実に拡大している。将来成長に向けた費用投下や投資は、中期経営計画に基づき、意思を持って継続する」と話す。特にプリンティングソリューションズ関連では、将来的な生産体制の強化に備えて、海外の事業用地を拡張する考えだ。

プリンティングソリューションズの成長を担うのは、大容量インクタンクモデルと高速ラインインクジェット複合機。いずれも、レーザー方式から置き換えるといった提案とともに、これまでのエプソンにはなかったビジネスモデルへと姿を変え、成長を遂げている。変革と成長という「二兎を追う」戦略が成功している事例といえそうだ。