平井一夫氏は、6年前の2012年4月にハワード・ストリンガー氏からソニーの社長兼CEOの職を引き継いだ。当時のソニーはビジネスの柱であるコンシューマーエレクトロニクスの事業が振るわない状況が続いていたが、平井氏が在職中にはテレビ事業に続きビデオ&サウンド事業を分社化。パソコン事業の売却などを立て続けに断行しながら足下の立て直しと収益力の強化を図ってきた。
現在事業の3本柱として掲げているモバイルコミュニケーション、イメージング、ゲーム&ネットワークサービスについても、同じ2日に発表された2017年度第3四半期の決算報告では、モバイルを除くイメージングとゲームの事業が好調と伝えられた。また半導体分野についてはモバイル機器向けのイメージセンサーの販売数量が伸びたことから今期増収となり、今後はセンシングや複眼スマホ、車載などへ用途展開が広がる期待も膨らんでいる。ほかにもテレビやオーディオ製品が含まれるホームエンタテインメント&サウンド分野が今期は好調だった。
2015年度から掲げてきた第2次中期経営計画の最終年度にあたる2017年度は、今年の3月で成果を結ぶ。2日発表された2017年度通期の営業利益予想は7,200億円と、過去最高を見込む。
好業績で新社長にバトンを渡す
平井氏は今回の退任を決定した理由について、記者会見の壇上でも「目標として掲げてきた経営数値を上回る業績を見通せるに至ったため」であると繰り返し説いた。また「好業績を収めつつあり、社内外に元気なソニーをアピールできている今こそ新社長にバトンを渡すのが最適なタイミングと考えた。さらに私自身も人生の次のステップに進みたいという意志を取締役会の方々にも汲んでもらえた」と晴れやかな表情でコメントした。
新社長になる吉田憲一郎氏は、ソニーネットワークコミュニケーションズ(旧称 ソネット)から2013年12月にソニーへ復職。その後は副社長として、そして財務の最高責任者として平井体制を中心で支えてきた人物だ。平井氏は吉田氏の人と成りを「戦略的思考と目標達成に向けた強い意志を持ち、リーダーシップとグローバルな視座にも長けている」と評価しながら、最適な人選であることを強調した。
吉田氏は今回の社長就任の要請について、昨年末に平井氏から打診されて「とても驚いた」と壇上でコメントした。そのうえでソニーの社長という大役を受けた理由については「現社長が問題を先送りにしない、強い意志で経営を押し進めてきた姿勢を隣で目の当たりにしてきた。私もこれまでに様々な経験をさせてくれたソニーという会社に少しでも恩返しがしたいと考えて意を決した」と述べた。
出席した記者から「ソニーの強み」を訊かれた吉田氏は、「SONYのブランドそのもの」であると答えた。「これからのソニーにとっても最大の資産。多様な社員が集まって、多様な事業を営んでいる。ソニーの“多様性”にますます磨きをかけていくことが課題」とした。吉田氏は今後の具体的な戦略・方針については今年4月以降に2018年度からの中期経営計画としてまとめて発表するとしながら、「これを着実に実行していきたい」を意気込んだ。