普及に向けた2つの課題

課題の1つは安全性だ。小沢氏によると、ワイヤレス充電の仕組みは「簡単にいうと、電子レンジがそのまま露出しているようなもの」だそうで、充電中のパッドの上に金属の異物が乗っかれば、それは熱を持ち発火してしまう危険性がある。

ただし、ワイヤレス充電システムの「異物」による危険性は当初から指摘されていたことでもあり、クアルコムもFOD(Foreign Object Detection=異物検知)システムの開発には余念がない。小沢氏によれば、「Qualcomm halo」は異物を検知した状態で充電を始めないし、充電中に異物を検知した場合は充電を直ちに中断するという。

もう1つの課題はコストだ。具体的に1セットでいくらくらいになるのかは聞けなかったが、個人で後付けのワイヤレス充電システムを用意するにしろ、自動車メーカーが新車にオプションとして設定するにしろ、コストはネックになりそうだ。

  • 地上に設置する「Qualcomm halo」の充電パッド

    地上に設置する「Qualcomm halo」の充電パッド。地中に埋設することも可能だ

誰がワイヤレス充電を普及させるのか

このように課題も抱えるワイヤレス充電だが、普及の突破口となりそうなビジネスモデルも小沢氏から聞くことができた。それは、駐車場とワイヤレス充電の組み合わせだ。充電パッドが設置された駐車場があって、そこにEVを停めると充電が自動的に始まり、駐車場から出る際には、クレジット決済で駐車と充電を合わせた料金の精算が済ませられる。買い物や食事などの時間をワイヤレス充電に充当するという、このような新しい駐車場の在り方を小沢氏は提示した。

もちろん、駐車場を運営する事業者が、その意義を感じてワイヤレス充電システムに先行投資できるかどうかという部分は問題として残る。まだまだEVが普及したとは言いがたい状況にあって、新技術への先行投資を行い、その投資額を駐車料金に上乗せして回収できるかというと、おそらく駐車場を運営する側は尻込みするだろう。

  • 地上側充電パッドの中身

    地上側充電パッドの中身

結局、EVの普及が先か、EV普及に向けた環境整備が先か、という問題に帰着してしまうわけだが、小沢氏は「夜明け前が一番暗い」として、ワイヤレス充電に率先して取り組む意義を強調した。どのくらいのスピードで、どのくらいの台数のEVが世の中に広まっていくかは未知数だが、「少ないとはいえEVは普及しつつあるのだから」(小沢氏)、ワイヤレス充電を特色とする駐車場の運営に乗り出す勢力があっても良さそうな気はする。

自動車メーカーの中には、今後はクルマを作るだけでなく、モビリティサービス・プロバイダーを目指すと宣言している企業もある。そういった企業が、自動運転のEVを使って人やモノを運ぶようなサービスに乗り出す際に、ワイヤレス充電設備の重要性を再認識する可能性もある。なぜなら、自動運転の導入でドライバーのコストを抑えたのにも関わらず、有線の充電器を使用するために人の手を必要とするようでは、画竜点睛を欠くと言わざるを得ないからだ。

クルマが自動で動いて仕事をこなし、バッテリーの残量が少なくなれば所定の場所で勝手に充電を行う。こんなビジネスモデルを構想する企業にとってみれば、ワイヤレス充電システムは不可欠なインフラとなるのではないだろうか。