舞台上の呼吸から始める
――今は稽古に入られていて(取材は12月下旬)、どういうところが大変だったんですか?
舞台って、その人が選べば、ずっと私のこと見続けることもできるじゃないですか。だから、どの瞬間でも役になってないといけない。でも、私はまだ普通に人のセリフを聞いてしまうんです。動いた方がいいのか、止まっていた方がいいのか、と考えていたら、息もしていしていないくらいガチガチだったらしくて、「呼吸して!」と言われました。まだ初歩的なことが踏み出せてない気がして、むちゃくちゃ焦ります。
――これまでもAKB48としてずっとステージに立ち続けられていますが、それとはまた違う感覚なんですか?
"誰か"としてステージに立つというのはなかったので、難しいです。逆に役者さんは「歌って踊って、すごいね」とおっしゃってくださいますが、それはずっとやってきてますからね。形の正解がない分、きっと頑張ればどうにかなると、毎日自分を励ましています。
――峯岸さんが演じるルーシーは、感情を出すシーンが多いように思いますが、稽古に入っての印象はいかがですか?
白井(晃)さんには「感情はあるから、よかったね。感情がないと始まらないから」と言われました。「感情に身を任せすぎて声が上ずっているから、下に下に落として、下でしゃべる感覚を掴めるといいね」と言っていただいて。わざわざ呼び止めてアドバイスをくださったから、すごく優しいなと思いました。
あと、「演劇というのは神様に見せるものだから、相手に感情をぶつけるだけでなく、誰かが観てることを前提にやると、空間が生まれるよ」と言ってくださって、分かりやすくて勉強になりました。
――さすが芸術監督ですね。
重みがありますよね。白井さん自身が神様みたいに見えてきました。
――松岡さんとはまだあまりやりとりはされていないんですか?
今は吉本実憂ちゃんと2人のシーンを、「しんどいね」と言いながら支え合っています。楽しみです。小学生の時に、松岡さんの下敷きを持っていたんです(笑)。顔がかっこいいと思っていたから、近くで見ると緊張します。
家族を喜ばせたいという思い
――初舞台も大変だと思いますが、峯岸さんは、いろいろ逆境にあっても乗り越えられていて、強いなというイメージがあります。
激弱ですよ! 今回も稽古始まったときに、うまく身体に力を入れられなくなっちゃって、握力が急に奪われたんですよ。ペットボトルが開かないし、スキンケアクリームも開かないし、もうこれはダメだと思いました。人との関係を遮断しがちなんですが、1人で追い込みすぎるとやばいと思って、メンバーのところに行ったらちょっと元気になりました。本当に毎回落ちるところまで落ちて、なんだかんだ復活してっていう感じです。人よりも弱いと思います、でも弱い分、弱く見せないようにしちゃうので、あんまり気づかれない。強そうに思われがちなんです。
――何か気分が落ちたときに、上げる方法はありますか?
それこそ、好きな舞台を観ると「自分もこの世界の住人になりたい」と思います。おいしいごはんを食べると、「このごはんをずっと食べるには、頑張って働かなきゃ」と思うし、自分にとって憧れのものをたくさん目にしたり、触れたりすると、頑張らなきゃという気持ちになります。ちょっと男性っぽい考え方かもしれません。
――そうかもしれないですね。
最近は大人になって、「家族のために頑張ろう」という気持ちもすごく出てきました。母が舞台をすごく楽しみにしてくれていて、喜んでもらえる瞬間を増やしたいんです。悲しませた分、喜ばせたい、活躍している姿を見せたい、と思います。25歳になって。
あとは先日、久しぶりに祖母に会ったら、入れ歯になっていたのがショックだったんです。いつでも若々しいおばあちゃんだったけど、歯がなくなったら少し顔つきが変わってしまって、でも今の私がポンと歯をプレゼントするのは難しいから、もう少し頑張らなきゃいけない。今までお世話になっていた分、物理的に恩返しができたらいいなと、すごく思いました。
――気が早いかもしれませんが、今後こういう舞台に出てみたいという希望はありますか?
まだうまく呼吸できないような、今の時点では絶対に無理なんですけど、すごく静かなストレートプレイをいつかやってみたいです。なんの抑揚もないような、役者さんの力だけで事が進んでいくような舞台も好きなので、そういった作品に呼ばれる位、ちゃんと呼吸が出来るようになりたいです。いろんな舞台が好きだから、色々経験して、2~30年後に静かな舞台に出られたらいいな、くらいの長いスパンで考えます。若いうちにからしかできない作品もあると思うし、色んなものを経ていい年齢になったときに、セリフだけで味を出せるような人になっていられればいいなって。
――じゃあ今回が第一歩ですね。
一歩にしては、突拍子もないところに入っちゃったんですが(笑)。すごく恵まれていると思うし、他の方の稽古を見ているだけで「この舞台は絶対に面白い」と確信できたので、自分が足を引っ張らないようにしなきゃと思います。
■峯岸みなみ
2005年に「AKB48 オープニングメンバーオーディション」に合格し、2006年に同グループの第1期メンバーとしてメジャーデビュー。以来、多方面で活躍する。俳優としては、映画『伝染歌』(07年)、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(11年)などに出演、映画『女子高』(16年)では主演を務める。また、ドラマ『メン☆ドル 〜イケメンアイドル〜』(08年)、『マジすか学園』(10年)、『青山ワンセグ開発 人間観察ミーティングドラマ ただいま会議中』(14年)などに出演する。
三文オペラ 公演情報
女好きの色男・マクヒィス(松岡充)は、乞食商会社長ピーチャム(白井晃)のひとり娘ポリー(吉本実憂)をみそめ、結婚式を挙げるが、それを知ったピーチャムはマクヒィスを逮捕させる。獄中をたずねたポリーと、マクヒィスの愛人・ルーシー(峯岸みなみ)による嫉妬の口論を利用し、マクヒィスはまんまと脱獄するが…。
作:ベルトルト・ブレヒト/音楽:クルト・ヴァイル、演出・上演台本:谷 賢一、音楽監督:志磨遼平(ドレスコーズ)
出演:松岡充、吉本実憂、峯岸みなみ、貴城けい、村岡希美、高橋和也、白井晃 ほか
神奈川公演はKAAT 神奈川芸術劇場にて1月23日~2018年2月4日。札幌公演は札幌市教育文化会館 大ホールにて2月10日。