ラバーの試作品は43種類に達し、これらの試作品を使って測定したデータは600以上にのぼった。データ測定では、機械だけでなく、実際に人が押して、ターゲットとなる押下カーブとすり合わせたり、断面を切り取って、その動きを検証してみたりといったことも行ったという。
週1回の定例会議を通じて、富士通クライアントコンピューティングと富士通コンポーネントとの間で、新規課題や納期管理の情報を共有。品質面に関しては、島根富士通も参加して、情報を共有した。
まさに、キーボードの開発、設計、生産のチームが一体となって作り上げたラバーだったといえる。「量産製造の直前まで試行錯誤を続け、直前の仕様変更も発生した。キーボードの生産を行う富士通コンポーネントや、ノートPCの生産を行う島根富士通にも迷惑をかけた」と藤川氏は振り返る。試作用の金型が遅れたり、やり直しの事態が生じたりといったこともあったという。
「ラバーの量産金型では、180個のラバーを、4つのシートとして1度に生産する。合計720個のラバーをまとめて生産することになり、このラバーのひとつひとつの品質が確かなものであるかどうかもすべて検証した。そうした作業にも多くの時間を費やした」(富士通コンポーネントの佐藤課長)という。
製造図面は複数人が分担して作成し、金型を複数メーカーに依頼するといった取り組みのほか、試作用金型と量産用金型を分けて作るなど、コストはかかっても、短期で製品化につなげるための工夫も凝らされた。そして、キーボードの組立に際しては、生産を担当する富士通コンポーネントのマレーシアの生産拠点であるFUJITSU COMPONENT (MALAYSIA)SDN.BHDに、日本から技術者を派遣して、品質の高い量産体制を整えたという。
キーストロークの変更で開発が振り出しに
一方、LIFEBOOK UH/B3シリーズのキーストロークは、従来の1.2mmから、1.5mmへと変更している。それも、深く打ち抜くことができるようにし、操作感を高めるための変更だ。
富士通コンポーネントによると、2017年3月の時点で、1.2mmから1.5mmへの設計変更を行ったものの、ターゲットとした押下カーブからは、大きく離れたものになってしまい、開発が振り出しに戻るような結果になってしまった。だが、翌月となる2017年4月には、ターゲットとした押下カーブに近づけることに成功した。だが、ここでは打鍵寿命に課題が生まれた。そして、それから改良を加え、2カ月後の2017年6月には、ようやく1.5mmのキーストロークで納得がいく試作が成功したのだ。
これだけ短期間で開発を進めたのは、当初の予定よりも前倒しで製品化されることが決まっていたことが見逃せない。新たなキーボードをいち早く市場投入することが命題とされていたのだ。
さらに、LIFEBOOK UH/3シリーズでは、キートップの形状も変更している。LIFEBOOK UH/B1シリーズでは四角い形状としていたが、LIFEBOOK UH/B3シリーズでは、中央部がへこんだ球面シリンドリカルキートップを採用。指へのフィット感を高めている。
こうした改善も、キーボードによる入力をスムーズにするためのこだわりのひとつだ。