今回は駆け足で多くの情報が提供されたが、Office 365に対するAIアプローチには、強い興味をひかれるのではないだろうか。前述したInfusing AIに該当する改良だが、Wordには略語を判断して意味を説明する「Acronyms(アクロニム)」、Excelにはテーブルの内容をAIが判断して適切なグラフを推奨する「Insights(インサイト)」が加わる。後者は、PowerPointでテキストなどを入力すると配色や文字サイズなどを提案する、「PowerPointデザイナー」を想像すると分かりやすい。
当初はドローンの動作検証用に開発した「AirSIM」だが、2017年11月からは自動運転車のシミュレーション機能をサポートした。仮想世界を構築し、その空間内でエージェントとなる自動車やドローンが、道路や上空を移動する際に、発生した事故を学習データに用いてAIの学習を支援するOSS(オープンソースソフトウェア)だ。今後は船舶への対応も予定しており、「各ベンダーと協力すれば面白いことができる」(榊原氏)とした。
昨今、AIが人間の読解力に並んだというニュースが世間をにぎわせた。具体的には、マシンリーディングという分野における標準的なベンチマークツール「SQuad(Stanford Question Answering Dataset)」を用いた測定方法にて、人間の82.304点に次いで、Alibaba(アリババ)が82.440点、Microsoft Research Asiaが82.650点という高い結果を打ち出した。それでもMicrosoft Research Asiaの担当者は「言語の複雑さとニュアンスの理解はまだ人間におよばない」と述べている。だが、自然言語処理分野において、また一歩進んだことは確かだ。
このようにAIが多角的に活用されている状況を踏まえ、日本マイクロソフトは2017年5月にPreferred Network(以下、PFN)との提携を発表している。今回新たに深層学習フレームワーク間のインポート/エクスポートを可能にする「ONNX」に対して、PFNの深層学習フレームワークであるChainerが対応することを明らかにした。「Chainerで作った学習モデルをCNTK(Microsoft Cognitive Tool Kit)で実行。学習と推論を別のフレームワークで実行可能にできる」(榊原氏)ため、日本のAI技術者も多くのメリットを得られるようになるだろう。
提携発表時に立ち上げた深層学習の開発事例や最新技術動向を発信するコミュニティ「DEEP LEARNING LAB」は、半年で1,700名の参加者を数え、既に日本全国で12回の勉強会を実施した。さらに、3日間で20万円の有償ハンズオンを実施したところ、10回で150名が受講し、100%の満足度を得たという。この実績をもとに、日本マイクロソフトとPFNは、経済産業省の「第四次産業革命スキル習得講座認定制度(Reスキル講座)」の認定を得た。両社は、協力企業を増やしつつ、「DEEP LEARNING LAB "ACADEMY"」と題した有償ハンズオンの実施を全国展開していく。
とみに感じるのは、かつて絵空事だったAIが、クラウドやGPUパワーで学習環境が整い、スピードを増して広まりつつある現状だ。この流れはさらに加速し、「毎日AIに触れる」……そんな時代がそこまで来ているのだろう。
阿久津良和(Cactus)