「レジロボ」の真の狙いはサプライチェーンの効率化だが、これにはRFIDだけでなく、「AI」や「IoT」といったバズワードも加えたプラットフォーム化が重要になると足立氏は説く。

効率化された「次世代サプライチェーン」は、調達から生産、物流、流通、販売のすべてをひと繋ぎにする可能性を持った"ソリューション"となる。個品管理によってデータの粒度は細かくなるが、これをビッグデータとしてAIに分析させれば、これまで見えてこなかったデータが可視化される。

  • レジロボの進化の方向性。棚管理もできるスマートシェルフや万引き防止ゲートなどを組み合わせたソリューションを展開する

  • 次世代サプライチェーン

「上流から下流まで」とはよく言ったものだが、プライベートブランドの展開ですべてを司る存在となったコンビニとって、すべてのデータを持ち合わせていることは最終的に「あなたのためのコンビニ」を作れることになる。

その一例として、足立氏ら"BLUEプロジェクト"が構想するのは、個客に合わせたカスタマイズ商品だ。例えば、朝にネット経由で自分の好きな野菜を入れたサラダを注文しておけば、植物工場からカスタマイズされたサラダが作られ、昼にはコンビニエンスストアのロッカーに届いて購入できるというサービスだ。個人への最適化だけでなく、在庫ロス、物流ロス、廃棄ロスのない、すべてのステークホルダーにメリットのあるシステムになるのだ。

また、人の手を介さずにIoTの形でロボット、スマートシェルフなどが稼働する時代になれば、人がいなくても対応できる本格的な"省人化"の時代が到来する。「人が要らない」はネガティブに映るが、人口減少社会の日本にとって、労働集約的な業務の機械化は願ったり叶ったり。むしろ高度人材に少ない人口資源を集中できるのであれば、まさに「社会課題の解決」に繋がるものと言っていい。

とはいえ、こうした取り組みは一朝一夕で成し遂げられない。10年後、いや、下手したら30年後の未来かもしれない。さらに言えば、パナソニック1社でサプライチェーン全体の管理など、実現できるはずがない。もちろん、足立氏もその点は認めており、さまざまな企業などが協力してプラットフォームを作り、「日本の産業としてしっかり育てる必要がある」と話す。

例えば、2017年7月にロボット技術のスキューズ社と業務提携したのも、その一環だ。スキューズ社は食品工場などのロボットを製造しており、足立氏は「製造の末端であり、物流の起点。個品管理のタッチポイントとなる存在で、彼らとの提携は第一歩だ」と語る。

パナソニックは自前でもロボットを抱えているが、業界横断ソリューションとして捉えた時、必ずしも自前主義は必要ない。むしろ、バックエンドシステムの作り込みとハードウェアの協調が可能なプレイヤーが少ないため、双方を抱えるパナソニックはプラットフォーマーになれる下地がある。プラットフォーマーになるのであれば、ハードウェアにこだわっていてはダメというのが足立氏の見立てだ。

  • 各タッチポイントでキラーエッジデバイスが情報を収集してデータを分析、解析する

さらに一歩踏み込むと、プラットフォーマーとして地位を確立すれば、ハードウェアの販売も容易になる。Amazonがスマートスピーカーの「Amazon Echo」やタブレット端末の「Amazon Kindle」などの端末を格安で販売しているように、B2Bでも同じモデルを構築できる可能性がある。

情報基盤の上流で得られたデータや利益を循環させていく「Amazonモデル」を、すでに決済端末や搬送ロボットで一定のポジションを築いているパナソニックがサプライチェーンに適用していく。これが彼らのシナリオと言えるかも知れない。

グローバルで戦うために必要なこと

パナソニックや産業界が、こうした次世代サプライチェーンを推し進める背景には、米国や中国などの巨大市場を背景に資本・技術を蓄えるプレイヤーへの危機感があると足立氏は説く。特に気を抜けないのが中国だ。昨秋、足立氏は出張で中国に足を運んだが、「Amazon Goより、中国ですでに稼働している無人小売店の方が進んでいて驚いた」(足立氏)。

さらに言えば、テクノロジー全般に対する姿勢自体が前のめりであり、「これからも進化してくると思う。AIやロボットなど、さまざまな最新技術のキャッチアップが日本企業よりも遥かに早い」と足立氏は警鐘を鳴らす。それはパナソニック自身においても課題となっており、足立氏は「商品化スピードがまだまだ遅い。品質管理は私たちのビジネスにとって重要だが、彼らのスピードに対抗するためにも、これまでのノウハウをフルに活かして簡素化しなければならない」と語る。

そこで大きな存在になるのが社長の樋口氏。樋口氏は「とにかく決断が早い。早すぎると言っても良い(笑)」(足立氏)。とは言え、やたらめったら判断しているのではなく、松下電器産業からHP、ダイエー、マイクロソフトそして再びパナソニックに戻ってきた経験から培った「目利き力があるからだと思う」(足立氏)。だからこそ、開発プロセスの短縮を実現できるのでは、と足立氏は期待を寄せる。

次世代サプライチェーンに向けた取り組みを続ける足立氏は、東京五輪が行われる2020年に、訪日外国人が「Wow」と声を上げるようなソリューションの開発を進めているという。「人手不足や安心安全など(の課題)をすべて解決したい」と意気込むが、日の丸を背負うサプライチェーンの代表選手となれるか。この取り組みは緒に就いたばかりだ。