社会発展、社会貢献を経営理念とするパナソニックにとって、そしてB2Bソリューションを強化するパナソニックにとって、日本が抱える社会課題の解決は「やらなければならない」ものだろう。
2017年2月、パナソニックはローソンと共同で完全自動セルフレジ機「レジロボ」の実証実験を行った。
なぜコンビニのレジを自動化するロボットが社会課題の解決に繋がるのか。パナソニック スマートファクトリーソリューションズ 小売・物流システムビジネスユニットのビジネスユニット長であり、取締役の足立 秀人氏に話を聞いた。
【特集】変わる、パナソニック。
2017年4月、前日本マイクロソフト会長の樋口泰行氏がパナソニックに舞い戻った。彼が担当するのはB2B領域のパナソニック コネクティッドソリューションズ。顧客の要望に合わせた製品づくりを得意としていた同社のB2B部隊だが、時代の変化から、もはや「ただの下請け」では生き残ることは出来ない。「どうやってビジネス転換を実現するかをしっかり考えないといけない」と話す樋口氏の覚悟、そして変わりゆくB2B部隊の今を追った。
コンビニ VS Amazon
「レジロボ」は、コンビニエンスストアにおけるレジ業務の自動化を担う。現在流通しているさまざまな商品はバーコード(JANコード)を読み取ることで商品名や値段を取得できるが、レジロボではこれを電子タグのRFIDに置き換え、商品の向きなどに関わらず近距離無線通信で簡単に読み取れるようにした。これにより、かごを置くだけで決済から袋詰めまで、ロボットがスムーズにこなしてくれるようになる。
ローソンとパナソニックの協業、両社のコーポレートカラーから「BLUEプロジェクト」と名付けられたこのプロジェクトは、4年前にスタートした。さまざまな議論を行った両社だが、特にコアとなる技術の内のひとつがレジのロボット…ではなくRFIDだ。
RFIDを利用したレジロボの実証実験が行われた2カ月後、2017年4月に経済産業省が「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定した。というのも、RFIDを商品に埋め込むには、パナソニック、あるいはローソン単体だけではとうてい無理な話。調達から生産、物流、流通、販売というサプライチェーンの上流から下流まで、すべてのプレイヤーが参画しなくてはならないのだ。
特に危機感を抱いているのがローソンなどのコンビニだ。コンビニは大手三社(セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン)がそれぞれ1~3万店舗を全国に展開している。1店舗あたりに必要なスタッフは24時間体制に対して20名程度と言われているが、昨今の人手不足や人件費の高騰から、満足に雇うことが出来ない。
さらに頭を悩ます要素が「少子化」「自動化」の波だ。コンビニの働き手は若年層と主婦層だが、主婦層はただでさえ共働きなどでコンビニのアルバイトへの定着が難しく、若年層は少子化によって担い手が減っている。三大都市圏では、留学生などの外国人が多く採用されているものの、担い手の主力としてはカウントしづらい。
一方の自動化は、話題となった米Amazon.comの「Amazon Go」が日本の産業界にとって、ライバルと言える。
もし日本にこの"黒船"がやってきたとしても、「コンビニのきめ細かな生産、物流、流通ネットワークがあるから問題ない」と思いたいところだが、少なくともECサイトでは、日本企業を超えるのも時間の問題とまで言われるまで成長した。物流拠点は共通化できるため、"万が一"が万が一でない可能性も十分にある。
カギを握るRFIDは、Amazon Goでは採用されていない。というのも、彼らはクラウド基盤の「AWS」で培った画像認識技術によって、ユーザーが購入する商品を特定する腹づもりなのだ。しかし足立氏は「画像認識では、同じ商品のどの個品が売れたのか判別できず、トレーサビリティに課題がある」と話す。RFIDはサプライチェーンが求める個品管理要求に対して柔軟に対応できる、「産業界のニーズ」に即した仕様というわけだ。
このニーズは、リアル店舗で接点を長年持ち続けているコンビニ業界だからこその視点。彼らが課題としているのは「サプライチェーンの効率化」であって、「巨大ECサイトの中間管理コストの最適化」ではない。Amazon自身、そうした認識のズレを感じたからこそ、1兆円を超える金額で米大手スーパー「Whole Foods Market」を買収したのではないかと言われている。