まもなく丸4年を迎えるSAPだが、小田島氏はいまの課題はどこにあると見ているのか。「SAPとして売上げは伸びているが、スケールしているとは言えない。そこはこれからだと思う。ここ数年で、ソニーグループ全体は回復したが、我々、SAPとしての尺ではスケールできていない」と振り返る。
スタートアップはいずれも規模を拡大させるところで、大きな壁にぶつかってしまう。そんななか、今後、SAPが規模を拡大させていくなかで、他のスタートアップやインキュベーションプログラムにはない「強み」といったものはあるのだろうか。
「組織が大きくなると、それだけ収益化が難しくなる。また、モノを安く作るために大量生産すれば、今度はそれらをたくさん売るのが課題になる。すると、今度はマーケティング力やPRの力が必要となってくる。つまり、モノをたくさん作って売ろうと思えば、それらを支えるオペレーション部分が重要になる。多くの会社は資金調達して人材を増やしてしまい、それでなかなか黒字化できなくなりがちだ。その点、ソニーは長年の知見からオペレーション部分の効率化はかなり得意だ。そうしたオペレーションの得意なメンバーが、SAPに入ってくることで、さらに効率化できる」(小田島氏)
実際、SAPには事業に応じて、オペレーション部分のサポートを専属、あるいは"本業"と兼ねてサポートしているメンバーがいる。こうすることで、複数の事業を効率よくサポートできる体制が整っているようだ。
SAPプロダクト、一つの区切りは「後任へのバトンタッチ」
2017年には、FESWatchの新モデル「FES Watch U」が登場し、wena wristも新モデルが発売された。後継機種が発売されることで、製品の完成度も増してきたように思う。
小田島氏は「2世代目の開発はとても楽だ。開発者たちに経験と知見が貯まっており、さらにみんな、小型化していくなど明確な目標ができ、開発に貪欲になっているからだ。wena wristは今後、普通の事業になっていくのではないか」と語る。
ここで気になるのが、メンバーたちのモチベーションだ。そもそも、新しいことを立ち上げたくて集まってきたSAPのメンバーたちだが、事業として成功し、ゴールテープを切ってしまうと、今度はまた新しいことをやりたくなってくる人たちではないのだろうか。
小田島氏は「wena wristなどはまだ改善し切れておらず、しばらく続くだろう。しかし、開発者たちのモチベーションがなくなるようなことになったら、違う人にバトンタッチすれば良いのではないか。良い例がPlayStationで、プロジェクトのメンバーが世代交代をして、製品も進化してきた」と話す。
ハードウェアのスタートアップとして、ぽっと出で一つの製品を出して終わるだけでなく、wena wristのように後継機種を複数、発売できる事業がようやく出始めた。将来的にソニーの屋台骨となるような、開発メンバーが世代交代して進化し続ける製品やソリューションを生み出せるようになると、SAPの評価も一気に上がることになりそうだ。