正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫には現状の打開策がある一方で、厄介な存在もある。それが健常者と認知症の間に相当する状態の「軽度認知障害(MCI)」だ。MCIでは、記憶をはじめとする一部の認知機能に問題が生じているものの、日常生活の動作は普通にこなせる。

厚生労働省研究班の調査によると、2012年時点でMCIの高齢者は全国で約400万人いたと推計されている。それからおよそ5年が経過した現在、その有病者はさらに増えているとみて間違いないだろう。

MCIから症状が進行して認知症に至ってしまう人の割合は、年平均で10%と結論付けている研究もある。MCIと診断された人や、認知機能の顕著な衰えを自覚している人は「認知症にならないような対策を講じないと……」と考えるのが普通であるが、現状は効果的な予防策がないという。

「残念ながら、軽度認知障害とわかった段階でアルツハイマー型に効く薬を飲んだからといって、予防になるというエビデンスはありません」と福島医師は話す。

国内には認知症の症状の進行を遅らせる認可薬が数種類あるが、発症そのものを防ぐ効果は確認されていない。すなわち、「認知症になる可能性が少なくない」とわかっても、医学の力を借りてそのリスクを低減させることは現状では難しいというわけだ。

認知症につながりやすい食事とは

それでも、生活習慣を改めることで認知症やMCIを防ぐ手段はいくつかある。運動もその一つであるが、運動に時間を割けないほど多忙な人も少なくない。そのような場合は、食生活を工夫するとよいと福島医師はアドバイスを送る。

「脳梗塞や脳出血など、脳の血液循環が悪くなることで発症する脳血管性認知症は、動脈硬化が原因となるケースが多いです。そのため、動脈硬化を促進させるリスクファクターの『高血圧』『糖尿病』『高脂血症』を招くような食事は避けた方がいいですね。具体的には、炭水化物を主とする高カロリーの食事は、認知症や軽度認知障害のリスクを高めます」

偏った食事ばかりとっているとビタミン欠乏を招き、動脈硬化や認知症につながってしまう。また、過度の飲酒もご法度。アルコールは脳細胞を死滅させ、脳を萎縮させてしまうからだ。

適度な運動と栄養バランスのとれた食事が病気を遠ざける――。当然と言えば当然かもしれないが、毎日のささいな積み重ねが自分の健康に直結しているという意識を持つことが、病気予防の第一歩ではないだろうか。

取材協力: 福島崇夫(ふくしま たかお)

日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。