「Webサイト運営者」として小澤氏がFirst Flightで重視しているKPIは、「テストマーケティングがうまく行くか」。クラウドファンディングからECへの移行した際に、ファンディング時の結果と、EC遷移後の差分をつぶさに見ているという。流入元の分析など、それぞれのプロダクトを詳細に分析した上で、プロジェクトにフィードバックも行う。

例えば、プロジェクトの中でも異色なパーソナルアロマディフューザー「AROMASTIC」では、アパレル系やコスメ系といったドメインからの流入が多く、逆にソニーが本来得意とするテック系メディアで取り上げられても流入や販売にあまり響かなったという。ECサイトは実店舗よりも顧客流入の動線把握が容易になるため、実店舗でどうアプローチかけるかの参考にもなると小澤氏は話す。

また、意外なところでは「FES Watch」と「wena wrist」という時計関係のプロダクトでさえも、傾向の違いが見て取れたと小澤氏。

「FESは、テック系の機能美というよりも電子ペーパーを使ったデザイン性を強調した製品です。一方でwenaは、やはりおサイフケータイの機能が利用できるのに、従来の時計の盤面を使える機能美を追求した製品。似た商品と思われるかもしませんが、FESはアパレル、wenaはテック媒体からの流入、購買が多い。どこにタッチポイントを作るのか、そしてどう波及させるのかを製品ごとにしっかりと考える必要があります」(小澤氏)

こうしたWeb上で把握できるすべてを製品作りやマーケティング指針に活かす取り組みは、新規事業ならではのスピード感、考え方だが、大きく分けて3つの目的が根底にあるようだ。

  1. 目利き力を上げる
  2. 開発力の強化
  3. 商品価値以上の販売力の強化

目利き力とは、自分たちの頭の中だけで製品を作るのではなく、ソニー外も交えた製品作りにすることで、顧客目線と技術者の作りたいモノのバランスを見極めることだ。2つ目の開発力の強化についても、こうした意見を発売までに商品へ反映させることで、開発期間の短縮やひいては新技術の開発まで、徹底的な顧客目線に立った開発にフォーカスすることを目的にしている。

そして3つ目の販売力は、前述のように「開発者ストーリー」を、開発している人の名前と苦労を見せることで、より製品を顧客に「身近なもの」として捉えてもらうことだ。First Flightには「工業製品なのに息遣いが感じられる」、そんな目標が透けて見える。

自分ゴト化できる場所に

First Flightは立ち上げ当初からPVも数倍以上に伸び、順調に「ソニーの新しいものが集まる場所」として機能しつつあるという。2017年には、海外向けサイトとして「Hatsuhiko」を立ち上げたほか、新しいモノ好きなセレクトショップからの要望に応える形で販売店の募集も始めた。

「大きい会社ですから、商談してハイ決まり、ではなく、契約書を締結して、口座を登録して、と販売までに多くのプロセスを踏まなくてはいけませんでした。ですが、卸売の仕組みを自分たちの中に持ち、ある程度のステップをWeb上で完結できるようにした。少ロットでも試して売ってみたいという方々に、ぜひ製品販売に携わっていただければと思ってます」(小澤氏)

ただ、いくら機能が増え、商品数が増えようとも、理念は「新しいコト、モノに興味がある人が、気軽に『自分も加われるんだ』と思える場にする」ことと小澤氏は語る。革新的な製品は、最初こそ小さな芽でもいつか花開く。ソニーがSAPで蒔いた種(Seed)が成長するか否かは、その土壌となるFirst Flightが健全に広がって行けるどうかにかかっている。