女性の社会進出と年金制度
現実問題、低成長で少子化も進めば夫婦ともに働かざるを得ません。しかし、そもそも専業主婦は歴史から見れば、ごく短い期間の特殊形態であり、歴史的には誰もが社会で働くのが一般的なのです。女性の社会進出がすすめば、少子化も加速されるかのように思われるかもしれませんが、実はそれは全く逆なのです。厚生労働省がOECDの調査結果をもとに作成した「各国の合計特殊出生率と女性の就業率」(2010年)のグラフを見ると、女性の就業率の高い国ほど出生率も高いのです。しかも就業率も出生率も高いグループ群と双方とも低いグループ群と完全に2極化しています。
唯一の例外はドイツで、就業率は高いのですが、出生率が低くなっています。しかし、ドイツは現在急速に出生率を上げているそうで、早期に上のグループに組み込まれるそうです。考えなければならないのは就業率も出生率も低いグループの国を見ると、日本、韓国、ギリシャ、スペイン、イタリア……と、経済的には残念な国ばかりとなっている現実です。ここから見えてくるのはひとつです。社会に出で働かない層が多いと経済は低迷する事実です。国は税金で成り立っているので、当然と言えば当然かもしれません。歴史をさかのぼって現代と対比させ、物事の本質を探ることは大切です。
平成27年度版の内閣府男女共同参画白書によると日本でも地方と東京・大阪を比較すると、地方の方が出生率、就業率ともに高いようです。また、男性の家事負担が多いほど就業率は高い現実もあります。
年金の問題は、女性の社会進出(女性も保険料を支払い、自分自身の年金を受け取る)、男女の家事分担、社会慣習、出生率など、社会のほぼすべての諸問題と関連します。また、歴史や諸外国と比較してみると、現在起きている様々な現象との関連も見て取れ、より鮮明に年金問題が浮かび上がります。
各自治体は成人式の式典をいろいろ工夫して執り行っていると思いますが、年金について詳しくレクチャーしてもよいのではと常々思います。若い世代が制度そのものとその背景を正確に理解すれば、年金制度もより良いものに変わっていくはずだと思います。年金制度だけではありません。少子化であれば年金原資が少ない、老後の準備のために共働きが当たり前、保育所不足の問題とつながっていき、あらゆる問題が大きく是正されることへつながるはずなのです。20歳でなくても、社会の仕組みを正確に理解すること、歴史や諸外国との比較など、より広い側面から考えてみることが大切であることを少しでも伝えられたら幸いです。
■ 筆者プロフィール: 佐藤章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。