このレポートは『損か得か国民年金基礎の基礎』の続編として、年金問題をその背景から考えてみたいと思います。年金は人生に大きくかかわるものですので、制度そのものをしっかり理解するとともに、社会全体との関連や、成り立ちの歴史や諸外国との対比など、より俯瞰的な視点からも見ることも大切ではないでしょうか。
海外の年金制度と日本の現状
若い世代は、自分が年を取ったときのことをなかなか想像できません。年金問題は、少しグローバルに世界全体を見渡して考えると、明確に見えてくるものがあります。欧米諸国や近隣のアジア諸国と比較すると、日本が今までに築きあげてきた制度がいかに貴重なものかが見えてきます。アジア諸国との対比でとらえてみましょう。
アジア諸国の社会保障制度は1997年のタイの通貨危機を契機に整備が進みました。タイは1990年に制度が制定、1999年に改正整備されまた。韓国は1988年に施行、1998年に改正されています。その他の諸国も制度はあったものの、多くがタイの通貨危機の前後に改正されています。
1944年に現行の厚生年金、1959年に現行の国民年金が制定された日本と近隣諸国とでは格段の差なのです。韓国の場合は年金受給権が発生するのは加入20年後です。2008年にようやく最初の受給者が発生したことになります。ようやく受給者が発生してから10年しかたたないのです。しかもまだ最大加入期間30年程度であれば、額もさほどではないでしょう。
しかも、今までは韓国社会の老後は子供に面倒を見てもらう社会だったのが、急速に変化しています。日本や欧米社会が「老後は子供の支援を受ける」と考える比率が1桁台であるのに比較して、韓国は、1980年は72.4%という数値(内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際比較」6回より)でした。それが2005年度の調査では37.3%に激減しています。年金は少ない、子供の支援は受けられない、80歳になっても働かざるを得ないのが現状で、それが社会不安を生んでいます。
年金問題は国民の生活の基盤をなすものです。その国で表面化している様々な問題も、年金制度と全く無関係ではありません。少し回りを広く眺めてみると、また違った側面が見えてくるはずです。
少子化と年金制度
年金制度は少子化とともに話題にされます。「少子化になれば将来自分たちの年金額が少なくなり、メリットがない」が一般的な印象ではないでしょうか。確かに団塊の世代は完全とは言えないまでも、何とか格好がつく世代でしょう。その親の世代はさらに恵まれています。しかし、そもそもなぜ少子化になるのでしょうか。
戦後、団塊の世代が生まれた時の日本の人口は、わずか8,000万人程度でした。それがあっという間に1億3,000万人になりました。日本の人口の推移をみると、人口の増加はかなり短期間で変動するもののようです。江戸時代以前は1,500万人程度でしたが、江戸時代になり世の中が安定すると一気に3,000万人程度に倍増しました。江戸時代は非成長時代ですので、徳川幕府の堕胎禁止令にもかかわらず、人口は庶民の自主規制で3,000万人程度を維持しています。その後、明治政府の富国強兵のための「産めよ、増やせよ」政策で一気に急上昇したのです。だから自分たちの年金が心配であるなら、第一は子供をせっせと作ればよいだけのことです。
「先々が不安…… 」は、理由になりません。歴史を振り返ってみると、先々不安でない時代が果たしてどれほどあったでしょうか。明治維新や第二次大戦後の先々不安を想像してみてください。私の両親をはじめ、多くが無一文からスタートしています。高度成長期も男性は良かったかもしれませんが、「女性は結婚したら退職、独身でも定年は35歳」がまかり通っていたのです。歴史の勉強は、何年に何があったかだけを学ぶ学問ではありません。