金太郎の故郷・金時山登頂
金時山山頂に続くこの先は所々道が狭く、下りてくる人と道を譲り合いながら進まなければならない難所や、ロープや木の根につかまりながら登らなければならないような岩場が何カ所かあるため、軍手なども用意しておいた方がいいだろう。特に雪が降った後などは、足元が滑りやすくなるので、十分注意が必要だ。
そして、登山口から70分ほどで金時山山頂に到着した。やや雲がかかっていたものの、正面に見える冠雪した富士山の姿を表現するのに、"神々しい"という言葉以外、見つからない。
ところで、この山が金時山と呼ばれるようになったのは比較的新しく、江戸時代になってからだという。童話などでお馴染みの金太郎の故郷が、足柄山(金時山も含めた、この辺りの山々を指す)であるという伝説から、その名が付いたそうだ。
金太郎は成長すると源頼光に仕え、坂田公時という武士になったが、小さい頃から力持ちで、クマと相撲を取ったなどという話が有名だ。頂上には金太郎にちなみ、「まさかり」が置いてあるので、記念撮影をしてみてはいかがだろうか。
乙女峠で類い希な絶景を
金時山からの眺望を十分に楽しんだなら、次は乙女峠を目指して、尾根道を歩いていこう。道は何度かアップダウンがあるものの、基本的に乙女峠に向かって下っていくことになる。金時山山頂から乙女峠までは、ゆっくり歩いて1時間ほどだ。
乙女峠からの眺望は、少なくとも私が今まで見た中では、最もダイナミックな富士山の景色ではないかと思う。富士山そのものはもちろん、裾野に広がる御殿場の街並みや樹林帯などを一望できるのは、標高1,000mを超えるこの場所ならではであろう。惜しむらくは、山頂にかかっていた雲だが、晴れた日のもう少し早い時間帯に訪問すれば、雲のない秀麗な姿を拝むことができるのだろうか。
さて、乙女峠からはさらに長尾峠方面へ山道を歩いて行くこともできるし、御殿場方面への下山道、箱根の仙石原方面への下山道もある。今回は仙石原方面へ下ることにし、山道を歩くこと40分ほどで、国道に出る。
国道に出てすぐのところには、高速バスなどの「乙女口」バス停があるが、箱根湯本の温泉街に寄って、日帰り湯で一風呂浴びたい。「仙石」バス停まで戻って、小田原行きのバスに乗ることにする。
バス停までは国道を歩いて20分ほど。途中、道の左手には坂田公時をまつる公時神社があるので、お参りすれば金太郎のパワーがいただけるかもしれない。なお、公時神社から歩き始める金時山登山ルートもある。
お土産は「金時力まんじゅう」で決まり!
小田原駅行きのバスに乗り、箱根登山鉄道の「箱根湯本駅」前のバス停で下車すれば、飲食店や温泉まんじゅうなどを売る土産物屋が軒を連ねている。面白そうなお土産を探してみると、「金時力まんじゅう」というのがあった。
箱根名物ではなく御殿場名物だが、普通の温泉まんじゅうと異なり、甘さ控えめな餡の中に求肥(餅)が入っている。「力持ち」の金太郎をイメージしているといい、今回の旅のお土産にピッタリだ。
さて、箱根湯本には日帰り温泉がたくさんあるので、温泉に浸かって汗を流せば、山登りの疲れも癒やされ、満足度の高い日帰り旅行になるだろう。これからの季節は、冬ならではの絶景が楽しめる反面、日が短くなり、雪などで山道が滑りやすくなっている場所もあるので注意も必要だ。しっかりとした計画を立て、準備も怠らずに山歩きを楽しんでほしい。
筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)
慶應義塾大学卒。IT企業に勤務し、政府系システムの開発等に携わった後、コラムニストに転身し、メディアへ旅行・観光、地域経済の動向などに関する記事を寄稿している。現在、大磯町観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員、温泉ソムリエ、オールアバウト公式国内旅行ガイド。2017年秋には、NHK『ごごナマ』に「紅葉」のゲスト講師として出演。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。