シャープは、AIとIoTを組み合わせた「AIoT」を全社事業拡大の柱のひとつに位置づけている。

これまでも同社 社長の戴 正呉氏は「従来のシャープは家電メーカーだが、私はシャープをIoTの企業にしたいと考えている」と発言したり、7日の東証一部復帰にあわせて行った会見でも「今後、東証一部の日本企業として『人に寄り添うIoT』や『8Kエコシステム』の実現に向けたトランスフォーメーションを進め、飛躍的成長を目指していく」などと発言している。

現在も白物家電事業を担当する組織は、健康・環境システム事業本部の名称だが、AIoT戦略推進室も設置されており、組織横断でAIoTを推進する体制を整え、AIoTを白物家電事業の推進エンジンに据える姿勢を示している。シャープは「健康」「環境」という軸を維持しながら、横串でAIoTを組み合わせる体制で新たな白物家電の創出に取り組むというわけだ。

では、AIoTが目指す世界観とは何か。沖津氏は、「スマート家電のMIF(市場稼働台数)拡大を図るとともに、他社製品や社内外との連携、ビッグデータの利活用など、新たな価値を提供する積分型ビジネスモデルを創出する」と話す。つまり、「家電」というモノ売りだけではない将来を「AIoT」で目指すというわけだ。

「ドアホンやスマートロック、スマートスピーカーといった他社製品も接続する。宅配業者や調理材料を提供する会社など、家電メーカー以外の企業も、このインフラを活用したサービスを提供するようになる」(沖津氏)

これらのプレイヤーが「接続したい」と思わせるためには、大元となる「シャープの家電」も当然必要不可欠だ。2016年度時点で国内3万台だったシャープ製のスマート家電だが、2019年度には累計出荷約300万台にまで拡大する見込みだ。

「クラウドに接続できるスマート家電は、現在こそ最上位モデルが中心。しかし、2019年度にはエアコンで80~90%、電子レンジでは30~40%がクラウドに接続することになる。300万台の家電製品がクラウドにつながれば、さまざまなビジネスモデルが考えられる」(沖津氏)

AIoTで変わる家電の価値

このスマート家電の最後のひとピースとも言えるのが、冒頭で触れた冷蔵庫だ。

扉にディスプレイを搭載した冷蔵庫は、クラウドと接続することでさまざまな情報を表示できる。今年10月のCEATEC JAPAN 2017でも参考展示していたが、同社 健康・環境システム メジャーアプライアンス事業部長の菅原 靖文氏は、「これは単なるプロトタイプに域に留まらず、AIoTに対応した商品開発に舵を切るものになる」と宣言する。

「冷蔵庫は食品を保存し、長く持たせ、コストセービングするという役割が中心だったが、AIoTと組み合わせることで、世界中の情報を表示したり、近所のスーパーのチラシを表示し、そこから注文するという使い方が可能だ。冷蔵庫は24時間通電するキッチンの王様。その冷蔵庫に何ができるのかを考えた場合、AIoTに対応した商品に舵を切ることは、今後の方向性として間違いではない」(菅原氏)

  • ディスプレイ搭載AIoT対応冷蔵庫の試作モデルも展示した

  • シャープ 健康・環境システム メジャーアプライアンス事業部長 菅原靖文氏

AIoT対応冷蔵庫は、決して「何でもあり」ではなく、どういった機能が必要なのか具体的に精査していると菅原氏。

「扉に大きなディスプレイ表示を行うと、デザインを壊すのではないかと考えたが、そうでもないことがわかった。だが、大切なのはメリットが伝わって、お客様が求めるものを提供できるかどうかという点。従来の冷蔵庫にはなかったメリットを提供したい」(菅原氏)

最後に沖津氏は、「私もちょうど60歳。これからは老化していくだけだが、シャープの白物家電は、これから100年に向けて大きく成長していくことになる」とジョークを交えながら、AIoTによる白物家電の進化に期待を込める。

60年目から先のシャープの白物家電は、AIoTによって、どう人に寄り添っていくのか。そして、収益の柱としての位置づけは変わらないままでいられるのか。60年目の節目は、新たなモノづくりの一歩を本格的に開始することを宣言するタイミングになった。