最後は、サンフランシスコのDropbox本社から来日した、プロダクトデザイナーのKurt Varner氏のプレゼン。Kurt Varner氏が担当した製品「Dropbox Paper」の、開発に対する考え方を紹介した。

  • Dropbox Paper

    Dropbox Inc. Dropbox Paper プロダクトマネージャーのKurt Varner氏

Dropbox Paperは、コラボレーションができるワークスペースとして開発され、2017年1月にリリースされた。「物理的な紙にインスピレーションを得て、デジタルにしていくところに着目」。一枚の紙はフレキシブルで、さまざまな使い方で無限のアイディアを表現可能。そこからDropbox Paperに関しても、柔軟性のあるものを目指した。

柔軟性のあるワークスペース、Dropbox Paparは、すでに多くのクリエイターが使用している。映像プロデューサージョン アランニチア氏は「ライターが白紙の前に座ってあらゆる世界を作ることができる。Dropbox Paperはタイプライターのデジタルバージョン」とのコメントを紹介していた。

Dropbox Paperのデザイン作業に関する3つのテーマ

一つめは「Paperのデザインチームを作っていく」ことで、7部門から72名が関わり、デザイナーだけでなくあらゆる人たちで作り上げた。

多くの部門からメンバーを参加させた理由として、「誰もがデザインを気にする必要はなく、本当に必要なのはどういう製品を作り上げるかを、それぞれの立場で考えること」と発言。ユーザーに使ってもらうのは製品であり、最終的に製品から素晴らしいデザインが生まれてくる。「プロダクトに対して本当に集中できるメンバーをチームに入れる」ことが難しかったという。

また、チームメンバーに当事者意識を持たせることが重要だとも。そのために、三週間に一回、4時間かけて、デザイナー、エンジニア、プロダクトマネージャーが集まって好きなものを作る「Hacky Hour」を行ったそうだ。良さそうなアイディアがあれば短時間で作り出す。Dropbox Paperの絵文字機能は、このHacky Hourから生まれた。

さらに「常に実験をしていく」ことを強調。誰もが好きな機能を作って、100人のメンバーからなる「実験チーム」に送って評価してもらう。このように、メンバーが当事者意識を持って強くつながっているチームを作ることが、企業にとって大切だと述べた。

二つめのテーマは「デザインに対して自分の意見をしっかり持つ」こと。Dropbox Paperは旧来のアプローチを変え、近代的なコラボレーション概念に基づいてゼロから考えた。「真っ白なキャンパスと変わらないもの、すべての可能性を切り開いていく使い方ができる」ものを作ろうと。人がツールに振り回されるのではなく、人が使いこなすものとしてツールを作成した。

最後の三つめ。「人を中心に据える」というテーマを紹介。デザイナーが常にユーザーと対話し、デザインリサーチチームが常時調査を行うことで、ユーザーをよりよく理解するように心がけている。二週間に一度「Real World Wendsday」として、限られたユーザーに初期デザインコンセプトをテストしてもらっている。さらにカスタマーチャットとして、何が良い機能で、改善しなければいけないところはどこか、さらに新機能のリクエストといったように、広くヒアリング。Kurt Varner氏の来日も、日本のユーザーを理解するのが主目的だったそうだ。

個人的に、Kurt Varner氏のプレゼンは非常に興味深かった。ハードウェアのデザインコンセプトを聞くことはそれなりにあるのだが、ソフトウェアのデザイン背景や開発思想を聞く機会はあまりない。今回、「この機能はこういう方針で作られているのか」と理解できたのは大きな収穫だった。また、一丸となって製品を開発するチーム体制という点は、ソフトウェアベンダーに限らず、多くのビジネスシーンで参考になる内容だろう。