役者は勇気を持って映画にチャレンジしてくれた

――キャスティングにあたっては、曽利監督からアイディアを出されたんですか?

自分で立ち上げた企画だったので、全部自らお願いに行きました。自分で一人ひとり口説いて回りました。最終的にはイメージに合う素晴らしい役者さんに集まっていただけたなと思います。

キャラクターの外見に似ているというよりは、演者さんとしての全体のイメージが近い人たちにお願いしにいった、という感覚が近いですね。外見は、メイクや衣装で原作のイメージに近づけることはできても、キャラクターの持つ印象そのものが演じられる役者さんがベストだと思います。

――お話を持って行った時の反応はいかがでしたか? 人気作ですし、驚かれた方もいたのではないかなと。

主演の山田(涼介)君や本田(翼)さんは、ご自身が原作の大ファンなだけに、迷いやプレッシャーはあったと思います。それでも勇気を持ってこの映画にチャレンジしてくれました。

――作品を拝見すると、やはり山田さんのドラマティックさがすごくて、物語を引っ張っているように思いました。山田さんを主役にというのは最初からあったんですか?

山田くんのいろんな作品を観ていたので、山田涼介という役者がすごく才能豊かな人だというのはわかっていましたし、さらに言うと山田くんしかいないと思っていました。西洋風の舞台ですが、彼はそういう背景がよく似合いますよね。日本人で、ヨーロッパの街に立って映画的に絵になる人ってそうそういないと思うので、ピッタリだと思います。

――事前に山田さんに抱いていたイメージが、撮影に入ってから変わられたという点はありましたか?

アイドルグループのエースですから、もしかするとエドとギャップのある、女子力の高い人かもしれないと思っていたんです。初めてお会いしてみて、もの凄く男らしい力強いイメージでとても安心しました。演技力に対する信頼はありましたが、エドというキャラクターとのギャップを演技力で埋めないといけないのか、それとも山田くんにエドに通じるような男らしさが十分にあって、さらに上乗せしていけるのかはわからなかったので。でも上乗せできる役者さんだったので理想的でした。

作品のソウルは日本人

――先ほど、「ハリウッドで映画化される可能性もあったかもしれないけど、日本でやりたかった」というお話でしたが、日本人で『ハガレン』をやるというのは大きな決断だったのかなと思います。

ハードルは高いですよね。ヨーロッパ風の舞台で、西洋風のキャラクターが中心なのに日本人が演じる違和感をどう克服していくのか。でも原作も、ルックは西洋人として描かれていますが、ハートの部分は日本人に近いものだと思っています。

例えばハリウッドで映画化した時に、ルックは合わせられるし、ものすごく派手な大作になるかもしれないですが、多分芯の部分、ソウルの部分を合せるのは相当困難だと思います。だから、日本人だけでの表現は難しい部分もありますが、正確に物語を描くという意味においては可能性はあると思いました。完成してみて思うことは、けっして日本人でファンタジー作品が撮れない訳ではないということです。

――原作者の荒川先生の反応はいかがでしたか?

先生が試写を観て出ていらっしゃった時に満面の笑顔で「楽しかった!」と言ってくださったんです。そのお顔を見て、本当に腰が抜けそうなくらい安堵しました。

荒川先生は撮影中に1度だけ激励にいらしていただいたのですが、キャストもスタッフもみんな大ファンですから、もう現場が湧き返ってそわそわしていました(笑)。印象的だったのは、先生とアシスタントさんが揃って美術セットに高い関心を示されていたことですね。そのシズル感や汚し具合を見て「これ、いい塗りですね」とじっくりご覧になっている姿に美術スタッフも大満足していました。

※曽利監督インタビュー、次回(12月15日公開予定)はVFXの秘密について伺っていきます。

■曽利文彦監督
大阪府出身。1997年、USC(南カリフォルニア大学大学院)映画学科在学中、ジェームズ・キャメロン監督の『タイタニック』に、CGアニメーターとして参加し、帰国後にVFXスーパーバイザーとして、『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』(00)など数々の映画やTVドラマを手掛ける。2002年に『ピンポン』で映画監督デビューを果たす。主な監督作に『ICHI』(08)、『あしたのジョー』(11)などがある。