シャープ復活の理由については、戴氏は独特の言い回しで表現した。
「私は日本人ではない。だが、多くの人が応援してくれたこと、全員一丸となってがんばってきた結果が、今日につながっている。みなさんに感謝したい。シャープはもともと実力がある会社。金脈と同じである。私は、金脈を掘る役割を行ってきた。これからも金脈を掘りたい」(戴氏)
独特の表現で、シャープの現場の底力の強みを訴えてみせたが、経営トップが変わったことで回復した事実を示したことは、現場を評価しながらも、暗に過去の経営陣を批判する意味が込められていたともいえる。
会見のなかで、シャープが新たに打ち出したのが、有機EL事業の拡大に本腰を入れることだ。
同社は2016年9月に、有機ELディスプレイの4.5世代生産ラインへの投資を決定し、その後は順次、投資を進めてきた経緯がある。12月下旬には、スマートフォン向け6.18型有機ELディスプレイのサンプル出荷も開始する予定だ。
「長年培ってきたディスプレイ技術を活用することにより、投資後、わずか1年余りで生産スタートを実現するなど、有機ELディスプレイにおいても技術開発は着実に進んでいる。今後も市場動向をしっかりと見極めつつ、本格生産へと移行していく。シャープは、東証一部上場企業として投資を継続していく」(戴氏)
一方で、「有機ELでサムスンと戦うことにはあまり興味がない。サムスンは横綱であり、シャープは自分ができるところをやっていくことで、事業を拡大していく」とも述べ、シェアを追う戦略ではないことも強調した。そして、液晶ディスプレイについては、「日の丸連合」を創生すべきとの考えを改めて示した。
戴氏は、2016年8月の社長就任後から「日の丸連合」について言及。特に、ジャパンディスプレイの資本参加に中国企業が名乗りをあげるといった動きが見られてから、その姿勢をさらに強めている。
戴氏は、「液晶ディスプレイ事業を日本に残すのか、残さないのか。これから経済産業省と産業革新機構に相談したい。シャープは、東証一部上場企業として、日本の社会に対して責任がある」などとし、東証一部復帰によって証明された財務体質および経営体質の改善の実績をベースに、日の丸連合の提案を加速する姿勢をみせた。
2018年はシャープ飛躍の年へ
一方で、戦略的事業領域には「8K」と「AIoT」を置き、「商品の独創性、革新的なデバイスの創出といった当社の強みを活かしつつ、チャレンジする企業文化を醸成し、『人に寄り添うIoT』、『8Kエコシステム』の実現に向けたトランスフォーメーションを進めることにより飛躍的成長を果たす」とも語る。
また、重要技術の開発については、事業本部の経費とは別枠で社長ファンドを活用。2017年度下期には、8Kエコシステム構築に向けた技術開発に約47億円の社長ファンドを充当することも、この日発信した社員向けメッセージのなかで明らかにしている。
「今後も8Kだけでなく、AIoTに関わる技術やソフトウェア、商品などの開発をはじめ、様々な分野の技術開発に対象を拡大し、取り組みを一層加速していきたいと考えている。皆さんが積極的に新しい提案をしてくれることを期待している」(戴氏)
戴氏は、2017年は「シャープ復活の年」になったと総括し、2018年を「シャープ飛躍の年」にしたいと語る。
「飛躍と言っても、単に売上げや収益を拡大するということではなく、経営理念に示された、『広く世界の文化と福祉の向上に貢献する』、『会社の発展と一人一人の幸せとの一致をはかる』、『全ての協力者との相互繁栄を期す』ことができてこそ、本当の飛躍だと考えている。全社一丸となって、シャープを、日本を代表する企業へと成長させていきたい」(戴氏)
だが、東証一部復帰というひとつのゴールを達成しても、手綱を締めることは忘れない。「2017年も残すところ3週間。2018年のスタートダッシュが切れるよう、一年の締めくくりと、新年の準備をきっちりとやり上げてほしい」と、社員へのメッセージの最後で呼びかけた。
社員の活躍を高く評価する一方で、最後の一言で手綱を締めるというあたりにも、戴氏流の経営法があるといえそうだ。