シャープは12月7日、東京証券取引所 市場第一部銘柄に指定され、同社 代表取締役社長の戴 正呉氏が就任以来、トッププライオリティに掲げていた「一部復帰」を果たした。
同社は6月30日に一部復帰の申請を行なっており、「東証一部から二部に指定替えとなった企業が、再び一部へ復帰したケースは過去数10年間で1件のみ。加えて、指定替え後、わずか1年4カ月でのスピード復帰は、過去に前例がない」(戴氏)という、異例ともいえる短期間での一部復帰を果たした。
シャープは、2015年度通期連結業績で430億円の債務超過に陥り、2016年8月に一部から二部へと指定替えになっていたが、鴻海傘下に入ることで再建を進めてきた。戴氏にとって、最初の通信簿となった2016年度決算では、売上高は前年比16.7%減の2兆506億円にとどまったが、営業利益は前年同期の1619億円の赤字から624億円の黒字に転換し、経常利益も前年同期の1924億円の赤字から250億円の黒字となった。
当期純損失こそマイナス248億円の赤字だったものの、2016年度下期だけで見れば、当期純利益は205億円の下期最終黒字化を達成し、黒字転換を確実なものにしていた。2017年度上期の連結業績も、売上高は前年同期比21.3%増の1兆1151億円、営業利益は前年同期の7900万円の赤字から405億円の黒字に転換を達成した。
特に第2四半期の最終利益は上期予想を大幅に上回り、リーマンショック以前の水準にまで回復したほどだった。自己資本比率も、2017年6月末時点の17.5%から、9月末時点では18.2%に上昇している。
同時に、2017年度通期業績見通しも上方修正を発表。売上高は据え置いて前年比22.4%増の2兆5100億円としたものの、営業利益は30億円増となる前年比48.9%増の930億円、経常利益は80億円増となる247.0%増の870億円、当期純利益は100億円増とし、前年の248億円の赤字から690億円への黒字転換を目指している。
債務超過という痛んだ財務体質を改善し、業績回復を達成した。戴氏の経営手腕は大いに評価されるものだといっていいだろう。
一部復帰で退任の腹積もりも留任、後継者には一部権限を委譲
もちろん、財務体質の改善だけでは「復活」とは言いがたい。しかし戴氏の残した成果はその他の面でも優秀だ。例えば
設備投資額では、2016年度には274億円の実績であったものが、2017年度計画では732億円と2.67倍に拡大。また、新卒採用は142人から312人へと2.20倍に、1人あたりの年間平均給与も1.17倍に増加しており、一部復帰にあたって社員にあてたメッセージでは「まさに、シャープ復活の証といえる」と宣言した。
実は、戴氏は東証一部への復帰を機に、シャープ社長の退任を視野に入れていた。
「2016年8月に、シャープの東証一部復帰を果たすという強い決心をし、片道の切符を買って日本にきて、シャープの社長に就任した。『One Way Ticket』という歌と同じ気持ちだった。ようやくこの目標を果たすことができた」(戴氏)
しかし、「次の100年のシャープを考えると、一部復帰は通過点である」とした上で、「中期経営計画の達成は私の使命であり、この責任を一身に背負い、中期経営計画の最終年度となる2019年度まで全力をあげて取り組む覚悟である」と決心を語る。
ただし戴氏は、長期的に経営を担うよりも、次期社長へとタスキを渡す準備を進める姿勢を明確にする。
「2018年度以降の経営体制については、取締役会ならびに次期株主総会に判断を委ねる」としながらも、「次期社長育成のため、今後は共同CEO体制へと移行し、決裁権限の委譲を検討する。これまでは取締役会の議長、経営戦略会議の議長、そしてオペレーション決裁のすべてを私一人で行ってきたが、共同CEO体制として、オペレーション決裁は共同でCEOとなる新社長に任せる。共同CEOは、社内社外を問わず、いい人材であることが条件である。早急に検討したい」(戴氏)
戴氏は、社内からの人選に限定することこそ否定したが、下馬評では、次期社長候補として、副社長の石田 佳久氏や代表取締役 兼 執行役員の高山 俊明氏などの名前が挙がり、共同CEOには社内からの昇格が有力との見方もある。いずれにしろ戴氏の経営ノウハウを、共同CEO体制を通じて伝承する期間を設けることになる。