▼スタッフと議論して出来上がった全員曲

――木村さんはご自身でもリリックを書かれますよね。山田一郎の曲、「俺が一郎」では好良瓶太郎という名義で作詞を担当されています。

この曲でも結構ことば遊びをしていますね。特に2バース目。これはTVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』にインスパイアされているんです。「まだ見ぬ天井があることがおれらのゲンドウ力」とか、「明日が雨(レイン)でも仲間をシンジ」とか。聴くだけじゃわからないけど、歌詞カードを見ると「マジか」って気づくところに、「ラップってすげぇ」と思ってもらえたらいいなと思います。

――そういったリリックに注目して聴いて欲しいと。

シンプルに「かっけー」でもいいですし、「頭振れる」でもいいと思うんですよ。そこからちょっとのめり込んだときに、リリックの深さに触れていくと面白いんじゃないかな。作り込まれたリリックが魅力的なプロのラッパーさんもたくさんいるので、『ヒプノシスマイク』をきっかけにして、チェックしていただけたら嬉しいですね。

――今回、女性向け二次元コンテンツと日本語ラップという、今までにない組み合わせが『ヒプノシスマイク』で実現しましたが、それに対して長年ラップに親しんでこられた木村さんとしては、どんなことを考えましたか?

今の時代、ない話ではないじゃないですか。「TOKYO TRIBE」だったり「HiGH&LOW」がヒットしているこの状況で。ただ、絵で表現していて、なおかつ完全にターゲットを女性にしているところは、超NEWな試みですよね。そういう意味では見たこともないし、聞いたこともない。ただ、女性向けっていうところで「果たして盛り上がるのか?」という不安はあったんです。やっぱり、イメージとして「ヒップホップ=男が燃えるもの」というのがあったので。

――不安はプロジェクトが進んでいく中で払拭されましたか?

そうですね。作っている人たちがその道のプロだから、そこは胸を借りて、僕は飛び込む覚悟だけあればいいのかなと。最終的には僕が心配してもしょうがないのかなって思いました。僕は精一杯ラップをやるだけだなって。それに、嘘をつかないでちゃんとしたヒップホップをやれば、聴いてくれるんじゃないかなと思ったんです。世の中には、とっつきやすくてわかりやすい「ラップ風」の曲はたくさんあるじゃないですか。でも今回は、「とっつきやすさとか一旦置いておいて、マジでラップしましょう」という企画だったので。

――スタッフの方々も、女性向けコンテンツとして本物のラップをやりましょう、という想いがあったんですね。

結構ありましたね。だから、歌詞については結構、議論をしたんですよ。たとえば、全員で歌っている「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」は、どうしてもラップとして見た時に、ワードチョイスがわかりにくいなと思ったんです。一郎の「『圧倒的』それ自体が新時代のクライム 与えよアニマ(※生命)、それだけがカルマ」というリリックには、ビジョンが見えない。そういう表現はどうなのかなと思って、「はたしてこれで面白いんですか? 」とスタッフの方にお話ししたこともあります。

――その議論の行方は。

そこでスタッフの方がおっしゃっていたのは、「全員曲に関しては、最初に聴かせる曲としてひっかかりを作りたい、だから得体の知れないすごさを出していきたい」ってことだったんです。「よくわかんないけどなんかすごい」っていうことば遊びをしたいと。それを聴いて、なんと僕は浅はかだったんだと思いました(笑)。やっぱり一線で作品づくりをされている方々は違うんですよね。僕がつくりたいものは、どれだけリアリティがあるかを重視していて、だから一人にでも刺さればいいやと思っていたんです。そうじゃなくて、スタッフの方は「みんながヤバイと思うものを作ろう」と。そういう目線でものづくりをされていて、やっぱりこの人たちはさすがだなと思いました。

――実際に、「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-」は、なんども聴いてしまう中毒性があると話題になっていますよね。

そうなんです。わけわかんないけど頭に残るし、口にしちゃう。そういうパワーがこの曲にあるんですよね。

▼レジェンドのラッパーにも負けない声優ならではのラップの力

――木村さんは別の作品のインタビュー等でも、ずっとファンに対し「ラップ聴こうよ」とおっしゃっていましたね。そうやってファンの方にラップをすすめて来たのはなぜでしょうか?

一般的に持たれている、「ラップって怖そう」とか、「危険な世界」だってイメージを変えたいと思ったんです。そういうイメージは根強いと思っていて、それが表立って「ラップやっています」と言えなかった理由の一つでもあった。確かにそういう一面もあるけど、今の日本語ラップはかなりクリーンだし、「そんなにラップって悪いもんじゃないぜ」ってことを伝えたかったんです。もしみんなが食わず嫌いしているのなら、「一回聴いてみてよ、絶対面白いから」って。

――聴いたなら絶対に魅力がわかってもらえると。ちなみに、最近木村さんがいちリスナーとしてお気に入りの一枚などはありますか?

最近の日本語ラップだと、PUNPEEさんが今年リリースした『MODERN TIMES』ってアルバムが最高でしたね。1 曲目の「2057」って曲は、40年後の自分が2017年の自分を振り返って喋っているという曲なんですけど、「おじいさんになった自分」として、声優の麻生智久さんを起用しているんです。ラッパーさんが自分でそれをやると、いまいちリアリティに欠ける。でもそこで、プロの声優さんを起用したことでリアリティが出ているのが、超いいんです。

――では、ラップに興味を持ったらそちらもチェックですね。最後に、『ヒプノシスマイク』で聴ける、声優ならではのラップの魅力について教えてください。

プロのラッパーさんはリアルな自分のことをラップするじゃないですか。でも、『ヒプノシスマイク』は声優さんがキャラクターを挟んでラップをしている。そうやってキャラクターを一枚挟むことによって、ラップに声優さんが演じるキャラクターの感情が乗っかりますよね。そうすると、もともと声優さんが持つ「ことばを発するパワー」の上に、キャラクターの感情が乗るから人に刺さる歌い方ができる。ことばが持つパワーを一番表現できるのが声優さんだと思うので、メッセージの強烈さを伝えるという意味では、声優さんってレジェンドのラッパー達にも負けないと思っています。これはマジです。

――キャラクターの感情と、ことばの強さの相乗効果ですね。

AGFのライブステージで、サイプレス上野さんやUZIさんが、まさに「声優さんがラップした時のことばの力、感情が乗ったときの強さがすごい」とおっしゃっていて、心の中でガッツポーズしましたからね(笑)。プロの方にそう言わせたのはすごいし、これは声優ならではの力なんだろうなって思います。

第2回の速水奨インタビューはこちら
第3回の浅沼晋太郎インタビューはこちら
第4回の白井悠介インタビューはこちら

▼『ヒプノシスマイク』CDシリーズ商品情報


・第1弾
イケブクロ・ディビジョン「Buster Bros!!!」
CDタイトル:「Buster Bros!!! Generation」
発売日:10月25日
定価:1,852円(税抜)
収録内容:
M1. 俺が一郎 / 山田一郎(CV.木村昴)
M2. センセンフコク / 山田 二郎(CV.石谷春貴)
M3. New star / 山田 三郎(CV.天﨑滉平)
M4. イケブクロ・ディビジョン Buster Bross!!! Drama Track①
M5. イケブクロ・ディビジョン Buster Bross!!! Drama Track②
M6. 俺が一郎(off vocal ver.)
M7. センセンフコク(off vocal ver.)
M8. New star(off vocal ver.)
封入特典:Buster Bros!!!ロゴステッカー

・第2弾
ヨコハマ・ディビジョン「MAD TRIGGER CREW」
CDタイトル:「BAYSIDE M.T.C」
発売日:11月15日
定価:1,852円(税抜)
収録内容:
M1. G anthem of Y-CITY / 碧棺 左馬刻(CV.浅沼晋太郎)
M2. ベイサイド・スモーキングブルース / 入間銃兎(CV.駒田航)
M3. What’s My Name? / 毒島メイソン理鶯(CV.神尾晋一郎)
M4.ヨコハマ・ディビジョン MAD TRIGGER CREW Drama Track①
M5.ヨコハマ・ディビジョン MAD TRIGGER CREW Drama Track②
M6. G anthem of Y-CITY(off vocal ver.)
M7. ベイサイド・スモーキングブルース(off vocal ver.)
M8. What’s My Name? (off vocal ver.)
封入特典:MAD TRIGGER CREWロゴステッカー

・第3弾
シンジュク・ディビジョン「麻天狼(マテンロウ)」
CDタイトル:「麻天狼-音韻臨床-」
発売日:12月6日
定価:1,852円(税抜)
収録内容:
M1. 迷宮壁 / 神宮寺寂雷 (CV.速水奨)
M2. シャンパン ゴールド / 伊弉冉 一二三 (CV.木島隆一)
M3. チグリジア / 観音坂独歩 (CV.伊東健人)
M4. シンジュク・ディビジョン 麻天狼 Drama Track①
M5. シンジュク・ディビジョン 麻天狼 Drama Track②
M6. 迷宮壁(off vocal ver.)
M7. シャンパン ゴールド(off vocal ver.)
M8. チグリジア(off vocal ver.)
封入特典:麻天狼ロゴステッカー

・第4弾
シブヤ・ディビジョン「Fling Posse」
CDタイトル:「Fling Posse-F.P.S.M-」
発売日:12月27日
定価:1,852円(税抜)
収録内容:
M1. drops / 飴村乱数(CV.白井 悠介)
M2. シナリオライアー / 夢野幻太郎(CV.斉藤壮馬)
M3. 3$EVEN / 有栖川帝統(CV.野津山幸宏)
M4. シブヤ・ディビジョン Fling Posse Drama Track1
M5. シブヤ・ディビジョン Fling Posse Drama Track2
M6. drops(off vocal ver.)
M7. シナリオライアー(off vocal ver.)
M8. 3$EVEN(off vocal ver.)
封入特典:Fling Posseロゴステッカー